目覚め
目を開けると、そこは見覚えのない部屋だった。
どうやら私はどこかの部屋の質素なベッドに寝かされているみたい。
質素とは言っても、普段お屋敷で使っているのが天蓋まで付いているような豪華なものだからそれと比較してっていうだけで、日本にいた頃に使っていたものと比べれば同じくらいなんだけどね。
「あ!フローリア様!良かった、お目覚めになられましたか」
横手から声がかかり、そちらへと視線を向けてみるとベッドの横に置かれた椅子にソフィアが座っていた。
「ソフィア……?あれ、私どうしたんだっけ」
体を起こそうとすると、ソフィアがそっと背中に手を添えて助けてくれる。
それにお礼を言いながら起こした体で改めて室内を見渡してみても、やはりここに見覚えはない。
何だか頭がぼーっとしてて記憶が曖昧。
どれくらいの時間寝ていたのかもわからないし。
「フローリア様は、魂を移す術式の行使のために王城へと来られているのです。
それは覚えてらっしゃいますか?」
グラスに注いだ水を手渡してくれながらソフィアが現状を教えてくれる。
「あ……」
そうだった。
水を飲んだことで少しだけ覚醒してきたこともあり、今日の記憶が蘇って来る。
「ねぇソフィア。サキは?
魔法は成功したの?」
この部屋にはベッドは私が寝ていた一つしかなかったし、見渡す限りここにいるのは私とソフィアだけでどこを見てもサキの姿がない。
あの夢のような空間の中で再会を約束したのに、もしかして……と、どうしても嫌な考えが頭をよぎってしまう。
「ご安心ください。
魔術士団長様のお話によれば、術式は無事に成功したそうです。
サキ様もまだ別室で眠られていますが、そちらにはレイシアが付き添っています」
「そうなんだ……。良かった……」
その言葉に心から安堵する。
もしもうサキに会えないとか言われたら、とてもじゃないけど耐えられそうにないもん。
どうにも我ながら少しばかりサキに依存しちゃってる気もするけどね。
「他のみんなは?」
「術式の行使に参加された皆様はそれぞれ別室で休まれています。やはりかなりの負担があったようでして、魔力切れに近い状態のようです。
団長様はフローリア様が目を覚まされたら呼んで欲しいと仰せでしたので、お呼びしてもよろしいでしょうか?」
「うん、大丈夫。呼んできてもらっていい?」
「かしこまりました。
しばらくお待ちくださいね」
そう言って部屋を出て行くソフィアを見送りながら、ふうっと息を吐く。
そして、自分の内側へと意識を向けてみると、どうしても気が付いてしまう。
ずっとそこに感じていたはずのサキの存在がないことに。
いや、寂しいとか思ったらいけないよね。
サキにも大丈夫だって約束したんだし。
それに、魔法が成功したのならまたすぐに会えるんだから。
それにしても、やっぱりみんなすごく大変だったんだ。
事前にそのことは聞かされていたけど、改めてありがたいなって思う。
みんなの体調が戻ったら、きちんとお礼を言わなきゃ。
ふと気を抜くとどうしても感じてしまう喪失感を打ち消すように今回の魔法に関わってくれたみんなのことを考えていると、扉がノックされる。
返事をすると、まず入って来たのはソフィア。
そして、その後ろから何が楽しいのか満面の笑みを浮かべている魔術士団長様が姿を見せた。




