提案の意図
『うっわ、また言い出したよこのおっさん』
陛下の言葉の意味を私が理解するよりも早く、サキが拒絶反応を見せる。
陛下をおっさん呼びはどうかと思うけど、拒絶反応を示すサキの気持ちもわからなくはないなぁ。
だって、これまでも数え切れない程その提案はされて来たし、その全てをサキは断っていたんだから。
「まあまあ、そう嫌そうな顔をするな」
だから、つい顔に出てしまったのも仕方ないと思うんだ。
陛下には失礼なのはもちろんわかってるけど。
『フローリアは悪くない。
このおっさんが全部悪い』
ほらね、サキもこう言ってくれてもん。
「もちろん、フローリアが爵位を望んでいないことはわかっている。それにサキもな」
そんな私達のやり取りはお見通しだと言うように陛下は笑っている。
それがわかってるなら、なんで今更こんなことを言い出したんだろう?
そもそも、伯爵位よりも上の辺境伯の爵位だって断ってるのに。
「だがな、落ち着いて考えて見て欲しい」
笑顔を引っ込めて陛下は真剣な顔になる。
どうやら、今回はいつものように「要りません」と断っても簡単に諦めるつもりはないみたい。
「フローリアは屋敷の使用人達の将来について色々考えているのだろう?」
「え?はい、その通りですけど……」
あぁ、以前エフィーリア様に手紙で相談したからね。
使用人のみんなは、それぞれ元々志していた夢や目標がある。
でも、今は身内から犯罪者が出た没落貴族という立場だ。
屋敷でこそある程度自由に過ごしてもらってるけど、それでも完全に国の監視の目がなくなってる訳じゃない。
だから、出来るだけみんなの希望を叶えたいと思っていても、どの程度までなら自由にしてあげられるのか私じゃ判断出来なかったんだよね。
それで、エフィーリア様からは陛下にも確認をするって返事をもらったから陛下がそのことを知ってるのはわかるけど。
「だからこその爵位であり領地だ。
領地を持てば、そこを経営していくらための役人が必要になるし、治安を守るための騎士団も必要になるだろう?
フローリアの領地内に限るという条件付きではあるが、今屋敷で雇っている者たちをそこで使えばいい」
「それは……」
ちょっと魅力的かもしれないよね?
使用人のみんなは領地経営に関わった経験のない子の方が多いだろうけど、元は貴族の子女だから基礎的な教養はある程度はあるはず。
もちろん今現在働いているお役人さんとかもいるんだろうから、その人達に付く形で仕事を覚えてもらえばいい。
ねぇ、サキはどう思う?
『んー。私としては爵位はいらないけどフローリアがもらう分には別に。
それにあの子達のことを考えると、そう悪い提案ではないかもしれないよね。
でも、フローリアの気持ちが最優先なのは間違いないけど、みんなの意思も確認した方がいいとは思う』
確かにそうだよね。
王都を離れたくない子もいるかもしれないもん。
「どうだ?」
陛下がまたニヤけてる。
きっと私がこの提案に内心惹かれてることなんてお見通しなんだろうな。
「えっと、正直かなり魅力的なご提案だと思います。
でも、みんなの意思も確認したいので……」
それに、私としてもいきなり領地を持つということを決断は出来ないよ。
領地経営の知識なんて全くないんだから。
「あぁ、返事はすぐでなくて構わない。
爵位と領地を持つならば、お披露目の時に合わせて発表することになるだろう。
だから、それに間に合うように返事をしてくれ」
「諸々の事務手続きを考えると、一ヶ月はかかります。
ですので、返事を頂く期限は二ヶ月といったところですね」
陛下の言葉を受ける感じでずっと黙ったままだった宰相様が引き継ぎ、今日の陛下との話は終わりということになった。




