フローリア
「お手紙で頼まれたように、いくつか候補を考えてみたのどけれど、どうかしら?」
そう言いながら、エフィーリア様が一枚の紙を取り出す。
そうなんだよね。
あまりこの世界での名付けとかに関しての知識がなかったから、エフィーリア様に名付け親を依頼しておいたんだ。
本当は王族であるエフィーリア様にそんなことを頼むなんて恐れ多いかなと思ったんだけど、快く引き受けてくれた。
どうやら、この世界で改めて生きていくと決めた私のことを後押ししてくれる気持ちもあるみたい。
本当にありがたいことだよね。
これもサキがエフィーリア様と良好な関係を築いてくれていたお陰だ。感謝しなきゃ。
「えっと……。そうですねぇ……」
エフィーリア様が用意してくれていた紙には、たくさんの名前が書いてある。
今の名前である「咲」の意味も伝えていたからか、花とかにちなんだ名前が多い気がする。
どれも素敵な名前だとは思うんだけど。うーーむ。
「気に入ったものはありませんか?」
「あ、いえ。そう言う訳じゃないんですけど……」
本当にどれも悪くないと思う。
忙しい中、真剣に考えてくれたんだなってエフィーリア様の誠意も感じる。
でもなんだろう。
なんかしっくりこないんだよなぁ。
頼んでおいて本当に失礼なのはわかってるんだけどね。
『もうサキーリアでいいじゃん』
はぁ!?ちょっとサキ!?
何言ってんのこの子は。
確かに「~ia」って言うのはこの国の高貴な女性の名前に多く付くってのは聞いたことあるけど。
エフィーリア様はもちろんだけど、王妃殿下のお名前もレフィーリア様だもんね。
とは言っても、私の周りにいる侯爵令嬢のみんなには付いてないから絶対ではないみたいだけど。
でも、それにしてもサキーリアはないでしょ!
『冗談だって』
全くもう。声が笑ってるんだよ!
「それでは、こちらは如何です?」
私がサキと言い合っている間を、悩んでいると思ってくれたのか。
エフィーリア様が別の紙を取り出す。
そして、そこに書かれていたのは……。
「フローリア……」
「ええ。花と豊穣を司る女神様のお名前から頂きました」
ねぇ、サキ。私この名前好きかも。
苗字まで入れるとフローリア・サキ・ヤマムラになるのかな。
『咲が気に入ったなら良いんじゃない?
これなら咲って名前の意味も引き継いでると思うし』
うん、そうだよね。よし、決めた!
「エフィーリア様!私フローリアに決めました!
ありがとうございます!」
決めた勢いそのままにお礼を言うと、エフィーリア様も嬉しそうに微笑んでくれる。
「そう。気に入って頂けて良かったわ。
それでは、改めてよろしくね、フローリア」
「はい!こちらこそよろしくお願いします!」
その後は今後の手続きなどについてエフィーリア様から教わった。
とは言っても、実はまだこの国には「サキ・ヤマムラ」としてのサキの戸籍しかない。
まぁ、それも仕方ないよね。
元々は一人だったのが二人に分かれるなんて普通に考えたら有り得ないし。
だから、これと言って何か手続きをしたりする必要はないみたい。
「ですが、今後のことやフローリアのお披露目についてお兄様から話したいことがあるそうなのです。
ですから、この後お兄様の執務室まで行って頂けますか?」
「それは大丈夫ですけど……お披露目とは……?」
「もちろん、フローリアの存在を内外に知らせるのですわ。
フローリアはイシュレア王国に現れた新たな流れ人という扱いになるのですから、当然のことです」
そんな話初めて聞いたよ!?
サキの時もそんなのなかったよね?
『んー、なんかそんな話はあったかも?』
嘘!?いつの間にやったの?
『いや、確か私が拒否してなくなったはず』
なら、私も断ってもいいのかな?
『無理じゃない?ただでさえ陛下には最近色々お世話になっちゃったし』
あぁ、そうか。そうだよね……。
「では、よろしくお願いしますね」
サキとの会話で私が内心ガックリとしているのに気付いているのか、いないのか。
にっこりと素敵な笑顔のエフィーリア様に見送られ、私は陛下の執務室へと向かった。




