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必滅の魔女  作者: 坂井 ユキ
第一部 魔女と聖女
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ワインのお礼

「さて、私と楽しくお話しようか?」


「ひっ……!」


身柄を拘束され、縛られたまま伯爵家の一室の床に座らされている使用人に笑顔を向ける。


この人は、先程の夜会で毒入りのグラスを私に渡して来た人だ。


会場を抜け出し、伯爵家の敷地からも逃げ出そうとしていたところを部下が取り押さえた。

さすがうちの隊員達は優秀だね。素晴らしい。


使用人は助けを求めるように視線を彷徨わせるも、私と部下達に取り囲まれている。

その全員から氷のように冷たい目で見られ、言葉もなくガタガタと震えている。


「誰に言われたのかな?それとも、貴方だけの判断?」


「た……助け……」


「毒ってすごく不味いんだよ?

せっかく美味しいご飯食べられるのだけを楽しみにしてたのにさ」


私は優しく声をかけてあげてるのに、使用人は震えたまま言葉を発しようとしない。


「そんなに怖がらなくてもいいよ?

貴方は『絶対に死なない』し、『気が触れてしまうようなこともない』から」


「や、やめ……」


私の能力を知っていたのか、笑顔のまま告げた言葉に使用人が助けをもとめる声をあげようとするが……。


「『全身を切り刻め』」


「ぎゃああああああああああああああああぁぁぁ!!!!」


すっと表情を消し、無表情で告げた私の言葉に、使用人の体が一瞬にして鋭い刃で全身を切り刻まれたような状態になっている。

伯爵家の使用人らしくそれなりにきちんとした服を着ていたけど、それは見る影もなく切り裂かれ、あっという間に全身が真っ赤な血に染まっていく。


とは言っても、今日はバラバラにはしてないから、肉片が飛び散ったりはしてない。

一応人様の家だからね。加減はしてあげてる。

絨毯が血で多少汚れてるけど、まぁいいでしょ。


「痛い?素直に話す気になった?」


血に塗れた体を軽く足蹴にしながら尋ねるも、使用人は口をパクパクさせながら呻き声を発するのみ。

普通なら即死してるだろうけど、死なないようにしてるから話せるはずなんだけどなぁ。


「隊長」


「ん?」


一連の流れを他の隊員同様無表情で眺めていたカレンが、私の近くに来て耳打ちしてくる。


「あー、ごめんごめん。

舌が切れてたのね。

それじゃ話せないよね」


便利な能力なんだけど、その辺の細かい部分の調整が難しいんだよね。

てか、カレンはよく気付いたな。

私は全然わかんなかったのに。


「ほら、もう『貴方は無傷』だから話せるでしょ?

それとも、もっと遊ぶ?」


一瞬にして全ての傷が消えた自分の体を、信じられないように見ていた使用人が私の言葉にビクッとする。


「す、全てお話しますっ!

ですから、どうかお助けを!!!」


「なんだ呆気ない。つまんない」


思わず心の声が漏れてしまったけど、たぶんこの使用人は素人だろうし、命じられただけならこんなもんか。

まぁ、仕方ないよね。

物足りない分は本命で遊べばいいだけだし。


「じゃあ、もう一度だけ聞くよ?

誰に言われたの?」


床に倒れたままの使用人の前にしゃがみ込んで聞く私に、化け物でも見るかのように怯えた目を向けたまま彼は答える。


「伯爵様です!!

私は全て伯爵様のご指示に従っただけなのです!

ですから……」


「うん、もういいよ。『黙って』」


聞きたいことは聞けたので、なおも何か言おうとしている使用人を黙らせる。


「さてと。とりあえずこの人はお城に連れて行っておいてくれる?

それと、伯爵の身柄は?」


私の言葉に使用人を連れて行くアレクとジェイクを横目で見つつ尋ねると、カレンが答える。


「家族共々副隊長が抑えておられるかと」


「おっけ。なら伯爵はいつものとこに連れて行って。

そこでゆっくりとお話しようか」

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