住み込みでの護衛
「それではサキ。また改めてご連絡差し上げますね。
恐らくお兄様も貴女と会いたいと仰ると思いますし」
「はい、わかりました」
王都へと帰還し、王城へと到着するとエフィーリア様たちとはそんな会話をして別れた。
エフィーリア様とナタリーさん、リズベットさんはこのまま国王陛下へと帰還とノフロンで起きた出来事の報告へと行くらしい。
クラリスさんとヒマリちゃんは、今日はひとまずこのまま休んで、明日謁見の予定なんだとか。
私も当事者の一人として国王陛下に挨拶や報告の必要があるかなと思っていたけど、体調面などを考慮してくれて、後日改めてという形になったそうだ。
そして、王城から王都のお屋敷までは近いのもあり、サキはいつも徒歩で移動していたけど、今日は馬車で送ってくれるらしい。
レイシアやソフィアがいるのもあるし、何よりも大人になった私の姿をあまり人の目に触れさせたくないというのも理由みたい。
確かにサキは王都ではかなり広く存在を知られているし、顔を知っている人もそれなりにいる。
そして、今の私の姿を見てサキの関係者の新たな『流れ人』と思う人もいるかもしれないもんね。
これは当たり前なんだけど、他人と言うにはあまりにも顔が似ているし、そもそもが同じ黒髪な時点で絶対に目立っちゃうもん。
徒歩でも約10分の距離というのもあり、お屋敷までの道程は馬車だとあっという間だった。
王城までこんなに近いなんて、サキって本当に良いところにお屋敷もらったよね。
日本で言えば田園調布とか南麻布とかみたいな感じ?
まぁ、そんな高級住宅街とは無縁に生きて来たから良くわからないけど。
「あの、隊長」
もうお屋敷へと着くというタイミングで、馬車に同乗する形で護衛として付き添ってくれていたカレンさんから声が掛かる。
「あ、はい!どうされました?」
どうにもまだ隊長呼びには慣れないけど、それはたぶんカレンさんも同じ。
他のみんなとはノフロンや王都への道すがらでの交流である程度は打ち解けられたとは思うけど、まだ私にどう接するべきか悩んでる感じだもんなぁ。
彼女の人柄はサキの中にいた頃はもちろん、今の私になってからの付き合いでわかってるつもりだし、何とか打ち解けられれば良いんだけど。
サキにとって大切な人だったからっていう以上に、私個人の気持ちとしてもね。
「その、隊長のお身体もまだ心配ですし、聖女様が結界を張ってくれてますけど、事前に潜入している間者がまた隊長を狙わないとは限りません。
ですから、しばらくは隊長のお屋敷にお世話になる形で護衛させてもらえませんか?」
「えっと、それは……」
どう答えたものだろう。
確かにカレンさんの言うことはわかるし、そうしてもらえるなら私としては安心出来るけど。
私が勝手に決めてしまっていいのかな?
「構わないと思いますわよ?」
私が返答に困っているのを察したのか、レイシアが口を開く。
「お屋敷の主はサキ様なのですから。
そのサキ様が許可を出されたのでしたら、否やを言う者はおりませんわ」
「それに加え、辺境行きの際に元特別部隊の皆様の行動についてもサキ様の意向を最優先にするように国王陛下から許可が出ています。
現在の扱いとしてはあの時のサキ様と今のサキ様は別人ということにこそなっていますが、それはあくまでもサキ様を王都へと呼び戻すための方便です。
何も問題はないかと」
レイシアだけでなく、ソフィアまでもが私の好きにして良いと言ってくれてる。
「隊長、ダメですか……?」
そして、カレンさんに目を向ければ、まるで子犬の様な目で縋るように私を見ている。
あぁ、本当に心から心配してくれてるんだ。
それなら、私の答えは一つしかないよね。
「わかりました。
それでは、どれくらいの期間になるかはわかりませんが、よろしくお願いします」
「はい!ありがとうございます!
絶対にお守りしますから!」
私の言葉に、カレンさんの顔がぱあっと華やぐ。
今の私になってから、カレンさんのこんな素敵な笑顔は初めて見たかもしれない。
「これは、ほかの隊員の皆様が黙ってはいないでしょうね……」
そのことが嬉しかった私は、レイシアがぼそっと零した呟きには気が付かなかった。




