サボってたね?
「文字の勉強してないんだね……」
「あはは……」
私の指摘に、誤魔化すように笑いながら頬をポリポリと搔いてるけど笑いごとじゃないんだよなぁ。
全く視線を合わせようとしてこないあたり、本人もまずいことはわかってるんだろうけど。
「ヒマリ」
少し声音を厳しくして名前を呼ぶと、ヒマリの肩がビクッと震える。
「来年度から学園に通うんでしょ?
それなのに文字が書けないのは不味いのはわかってる?」
「だって難しいんですもん……。
日本にいた時から英語とかも苦手だったし。
一応自分の名前くらいなら書けますし、それでこれまでは何とかなってたから……」
言い訳をするように胸の前で指をもじもじとさせているけど、たぶんそれは本当なんだろう。
聖女としての普段の仕事がどんなものなのかはわからないけど、私の近衛での書類仕事もサインするだけだったし、似たようなものだったんだろうと思う。
「でもね?学園だと試験もあるよ?
その時、こっちの文字書けないと解答欄に何も書けないことになるよ?
日本語なんて読める先生いないだろうし」
ふと、頭の中に茶髪で眼鏡をかけた不敵な笑みが浮かんだけど、それは気にしないことにしよう。
あの人なら読めちゃう気もしなくはないんだよな……。
「あ、そうか。試験とかあるんだぁ」
私の言葉に、そのことに今初めて気が付いたみたいだけど、その顔がみるみる絶望に染められていく。
日本では高校生だったんだから試験とかもやってただろうに、どうやらそのことは全く考えていなかったみたいだ。
「サキさぁん……どうしましょう……」
うるうると潤んだ瞳で見上げてくるヒマリ。
だから、その目は止めなさいって。
その視線に弱いんだよ私は。
「仕方ないから、ここにいる間は私が教えてあげるよ」
「本当ですか!?」
さっきまで泣きそうな顔をしてたのに、それが嘘のように晴れやかな笑顔になるのにはちょっと一言言いたくはなるけど。
まぁ、本人がやる気になったんならそれでいいか。
「うん。それに今なら学園のみんなもいるし、文字以外にも色々と教わったらいいんじゃない?
本での勉強も大切だとは思うけど、生の声を聞くのも大事でしょ」
親しいせいか忘れがちだけど、今ここに滞在してる学園組って外交、軍事、内政、ついでに庶民の生活まで。
イシュレア王国の様々なことを学ぶには最適なメンバーが揃ってるよね。
「そっか……。皆さんサキさんの同級生だった方ばかりなんですよね。
でも、あたしまだ挨拶くらいしかしてなくて……」
あぁ、そうか。
ヒマリやみんなの性格からしてもお互いに人見知りとかはしないだろうけど、ここだとそれぞれの立場があるからあんまり気軽には話せないか。
「それなら、私が間に入るから交流する場を作ろうか。
エフィーリア様含めてみんな気さくだから、すぐ仲良く慣れると思うよ?」
「本当ですか!?是非お願いします!」
クラリス達訪問団の目的を考えても悪いことじゃないだろうしね。
クラリスに話を通してもらうのはヒマリに任せて、私はさっそくエフィーリア様やスチュワートに相談してみようかな。




