その目は反則
「ヒマリ……」
その言葉が嬉しくて、鼻の奥がツンとしてくる。
微かに滲む視界の中で、ヒマリは言葉を続ける。
「あたしが、少しでもそんな風に思ってるなら、無理矢理予定変えてもらってまでこうしてここまでサキさんに会いに来たりなんかしませんもん!
それに……」
私に会いに来てくれたっていうのは嬉しい。
嬉しいけど、ちょっと待て。
今聞き捨てならない一言が聞こえたな。
涙も引っ込んだぞ。
「ヒマリ?」
「……へ?」
スンと無表情になった私に、ヒマリが戸惑っている。
まぁ、さっきまであんなに感動してたのに、いきなりこうなれば戸惑うのもわかるけどさ。
「あ、あの、サキさん?」
「会いに来てくれたのは本当に嬉しいよ。
でも、無理矢理予定を変えさせたっていうのはどういうことかな?」
「あ……えっとですねぇ……」
しまったという顔して、ついっと視線を逸らすヒマリ。
だけど、一度口にした言葉はもう引っ込まないし、逃がすつもりもないぞ。
「まさかとは思うけど、この訪問団そのものがなんてことはないよね?」
「そ、それはさすがにないです!
イシュレア王国への訪問自体は元から決まってたので!!」
ついついジト目になる私に、ヒマリは慌てたように顔を前で両手を振りながら否定する。
「本当に?」
「本当!本当です!」
疑いの目を向ける私に、ヒマリは気まずそうにもじもじとする。
その様子は小動物みたいですごく可愛い。可愛いけど駄目なものは駄目だぞ。
「イシュレア王国への訪問団の派遣は神聖王国として正式に決まっていたことなんです。
やっぱり、まだ前の教皇様を支持していた人達も残ってるから、その人達への牽制の意味も込めてイシュレア王国と今の教皇様の関係が良いものだって示す必要があるからって」
うん、それはわかる。
その辺に関しては苦労させてる原因は私だからほんの少しだけ申し訳ないとも思うし。
「私もイシュレア王国にはお世話になったし一緒に行くことになりました。
それで、せっかく行くなら良い機会だからこのまま留学って言うか、しばらくイシュレア王国に残れないかなって思って、クラリス様や教皇様と相談してたんです。
サキさんにも会いたかったし。
でも、そんな時に聞いちゃったんです。
サキさんが王都から、その……追放になったって」
誰だ余計なこと言ったの……。
いや、クラリスやヒマリを寄越すなら現在のイシュレア王国の情勢も詳しく調べるだろうからすぐにわかることか。
「それを聞いたら居ても立ってもいられなくて……その、クラリス様にお願いして……。
そしたら、クラリス様も許してくださったから良いかなって。
あの、怒りました?」
そう言いながら、上目遣いでこちらを窺うように見てくる。
本当は、クラリスが良いって言ったのなら私がとやかく言うようなことじゃないのはわかってるんだ。
だけど、ノフロンはお世辞にも安全て言えるような土地じゃないから…………あぁ、もう!
そんな目で見られたら何も言えないじゃないか。




