なりたい自分
「ねぇ、アンネ。コーネリア。
二人はさ、どんな自分でいたいと思う?」
「どんな自分……」
「わたくしは……」
うーんと考え込む二人に、私は笑顔を向ける。
「私はね、私が大切に思ってる人達にも、私と一緒に平和で穏やかな毎日を過ごしてもらいたい。
みんなにはいつでも笑っていて欲しいから、それを守れる私でいたいと思ってるよ」
アンネとコーネリアも当然その中に入っている。
二人の笑顔が好きなんだよね、私は。
初めて言葉にしてみたけど、そうすることで自分でも驚く程すとんと腑に落ちた。
結局のところ、私はそれだけなんだよ。
でも、それで良いと思ってる。
「それでしたらサキ様。わたくしにもありますわ」
ずっと俯きがちだった顔を上げて私に向き直るアンネ。
「サバイバル合宿の時のことを覚えておいででしょうか?
あの時、サキ様はこんなわたくしを大切な仲間だと仰ってくださいましたわ!
ですから、わたくしはいつでもサキ様が誇れるわたくしでいたいと思っているのです!
全く、わたくしとしたことがこんな大切なことを忘れていたなんて……」
最後は少し愚痴るような口調で言ったアンネだけど、その瞳にはキラキラとしたいつもの輝きが戻っている。
「もちろん覚えてる」と頷けば、とても嬉しそうに笑う。
うん、私の好きないつもの笑顔だ。
「それでしたらサキ様。わたくしも……」
照れ臭いのか。少しもじもじとしながらコーネリアも声を上げる。
「わたくしは何も取り柄がございませんから……。
ですから、せめていつでも明るく笑うことで、皆様を笑顔にして差し上げたいのですわ」
そうしてはにかむように笑うコーネリアの笑顔は、いつもとは少し雰囲気が違うけど、それもまた彼女の一面なんだろうなと思う。
普段はアンネと一緒になって大騒ぎをしているけど、元々の気質は穏やかな子なんだろう。
…………ん?そうか?
少し自信がないけど、まぁきっとそうだ。
それに、取り柄がないなんて、そんなことはない。
アンネとコーネリア。
いつの間にか周りを巻き込んで、みんなを明るい笑顔に変えてくれる二人。
それは間違いなく彼女達だけの魅力だ。
そのことを言葉に出して伝えてあげるべきかとも思ったけど、すっかりいつもの調子に戻ってじゃれあっている二人を見ると、別にいいかなと思う。
たぶんこの子達なら大丈夫だ。
本人達がこのことに気付くかはわからないけど、二人の周りにいる人達は気付く。
だから、それで良いよね、きっと。
そして、普段通りの笑顔を取り戻した二人を見ながら密かに心を決める。
私には、もう一人。
笑顔にしてあげたい子がいる。
私のせいで悲しそうな顔をさせてしまった同郷の少女。
せっかく私も笑えるようになったんだ。
だから、今度こそ二人で笑い合いたい。
そのためにも、私はあの子としっかり向き合わないといけない。




