最大の?試練?
その日は、そのまましばらく雑談をしてお開きとなった。
王族を迎えたのだから、本来なら歓迎の晩餐会とかを開くものなんだろうけど、事前にエフィーリア様からそういう気遣いは無用だとの話があったらしい。
ただ、国賓でもある神聖王国からの二人。
クラリスとヒマリを迎えるとなるとそうはいかない。
規模こそ大きいものではないけど、歓迎のパーティを開くことになっている。
そして、みんなを迎えた翌々日である今日。
つまり、ヒマリ達が到着する予定日であるその日。
私は、ある意味でこの辺境の地に来てから一番辛い時間を過ごしている。
「ねぇ、別に今からこんな支度しなくてもいいんじゃないの……ぉぉおおおお!?」
「何を仰います…………かっ!!」
苦しい。
お腹がちぎれる。
内蔵が口から飛び出して来そうだ。
まぁ、つまりあれです。
コルセットをね、思い切り絞められてるんですよ……。
普段起きる時間よりもずっと早く。
それこそ、まだ外が薄暗いうちから叩き起され。
いつもお風呂は一人で入っているのに、ソフィアとレイシアの二人がかりで、全身の隅から隅まで。
とても言えないあんなとこやこんなとこまでピカピカに磨き上げられ。
全身に何だかよくわかんないけど、色んなオイルみたいなのを塗りたくられ。
悶絶するようなマッサージでゴリゴリされ。
その時点で既にげっそりしていたんだけど、とどめを刺すと言わんばかりに、これでもかと絞められてる。
「本当に、腹立たしい程ほっそい腰ですわ…………ねっ!!」
「な、ならそんなに締めなくても…………ぐふっ」
確かに、この国でも女性のウエストは細ければ細いほど良いとされてるのは知ってるけど、苦しいものは苦しい。
そもそも、こんなに絞って、背中からそこらからお肉を集めて寄せて上げても、出来上がったのは本当にささやかな谷間だけだし……。
いや、元々は別になかったわけじゃないんだ。
ただ、私は体の成長が少し遅めだったから。
「さ、出来ましたわよ」
「…………え?」
「サキ様、ずっとぼーっとされてましたが、大丈夫ですか?」
ふと気が付けば、いつの間にかドレスを着せられ、うっすらとお化粧までされていた。
着せられていたのは、紫のAラインのドレス。
余計な装飾などは施されていないシンプルなものだけど、その分大人っぽくて確かに私好みのものではある。
胸元には、青い宝石のネックレスまで輝いている。
サファイアかなと思ったけど、良く似たカイ……なんちゃらってやつらしい。
「うん、すごく良い感じだとは思うんだけど、一つ聞いて良いかな?」
後ろでやり切ったと満足気な顔をしているソフィアとレイシアを振り返る。
「なんでしょうか?」
「今さらだけどさ。これ、今日着る意味あるの?」
だって、ヒマリ達が来るのは今日なんだ。
それも、到着は夕方くらいになると知らせが来てる。
と、言うことはだよ?
歓迎のパーティを今夜やるはずなんてないんだ。
ていうか、パーティは明日だよね!?
「決まっているじゃありませんか」
軽く涙目で訴える私を、レイシアは冷たい目で見てくる。
「サキ様、最後にドレスを着たのはいつです?
わたくし、サキ様の元でお世話になる前から式典でお見掛けしたことはありましたけど、いつも近衛の制服だったではありませんか!」
「いや、えっとそれは……。
ほら、私近衛騎士だったし?」
もうそんなのいつかなんて全然覚えてない。
「お黙りなさいっ!」
レイシアが怖い!なんでブチ切れてるのこの子!
「とにかくですわ!これは予行練習です!
わかりましたか!?」
「え……。それってつまり、また明日も?」
違うと言ってくれ。
そう心から願う私に、レイシアだけでなく、ソフィアまでもが悪魔の微笑みを見せる。
「「当然です」」
その言葉にがっくりと崩れ落ちた私は、そのことで更に怒られたのだった。




