神聖王国からの手紙
「ねぇ、本当に私何も手伝わなくていいの?」
怒涛の訪問予告ラッシュの翌日。
それを迎え入れるためにバタバタと準備に走り回っているソフィアとレイシアに向けて訊ねると、レイシアがちらりとこちらに視線だけ向ける。
「勝手の分からない方に手を出されても邪魔なだけですわ!
サキ様はまた隊員の皆様とお出かけでもしてきてくださいまし!」
いや、まぁ確かにどんなことをすれば良いのかとかわからないけど……。
くそぅ、レイシアが冷たい。
「こういったことは私達の仕事ですから……。
あ、サキ様。お手紙のお返事はもう書かれましたか?
まだでしたら、今のうちに書かれてしまってはいかがでしょう?」
「あ、うん。書いてはいるけどまだ途中……」
「でしたら、さっさと書いておしまいなさいっ!!」
今日も優しいソフィアが答えてくれていたのに、何故かレイシアに怒られた。
忙しいのはわかるけど、ちょっとイライラし過ぎじゃない?泣くぞ?
「サキ様、少しよろしいですかな?」
足音も荒く部屋から出て行くレイシアを、内心で涙を流しながら見送っていると、入れ替わるように入って来たのはスチュワート。
どうしたんだろう?スチュワートは立場上、二人よりもっと忙しいはずだけど。
「うん、私は全然大丈夫だけど、どうしたの?
スチュワートさん、いまめっちゃ忙しいでしょ?」
「はっはっはっ。このくらい大したことはございませんよ。
実は、サキ様にお伝えしたいことがございましてな」
「それならいいけど。
で、なに?」
何か準備で問題が生じたとか?
でもそれならスチュワートの方で対応するよね。
私は単なる居候みたいなもんだし。
「たしかサキ様は以前、ライオネア神聖王国に行かれたことがありますな?」
「え?まぁ、あるけど……」
予想外の名前が出て驚きはしたけど、事実なので頷く。
ヒマリとは気まずい別れ方をしてしまったのもあって、正直あまり良い思い出はないんだけどね。
「実は、あちらから訪問要請が来ておりましてな」
「…………嘘でしょ?なんで?」
何とか返事をすることが出来た。
驚き過ぎて頭真っ白になるかと思ったよ。
そもそも、神聖王国は国内の首脳部が丸ごと入れ替わった影響でまだ混乱してるんじゃないの?
いや、でもあれからなんだかんだで一年半くらいは経つし、多少は落ち着いてきてるのかもしれないけど。
「どうやら、かの国も少しずつ落ち着きを取り戻しているようでしてな。
それで、先の件の御礼という形で王都を訪問されるようです。
その途中で、このノフロンにも立ち寄られるとか」
いやいや、王都まで行くのにここに寄るっておかしいでしょ。
全然通り道じゃないし。むしろめっちゃ回り道になるじゃんか。
「……一応聞くけど、誰が来るの?」
聞くまでもなくわかってはいるけどさ。
もしかしたらって可能性もあるよね?
「訪問団の代表は教皇猊下のご息女ですな。
あとは、聖女様も同行されるとか」
「…………」
やっぱりか。
あまりの驚きと混乱で、私の頭は今度こそ思考を放棄してしまった。




