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必滅の魔女  作者: 坂井 ユキ
第三部 辺境の魔女
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辺境騎士団

訓練場が近付いて来ると、訓練をしている騎士達の勇ましい掛け声が聞こえて来る。


最前線で先の大戦を戦い抜いた騎士もまだ多くが現役として残っているこのノフロン辺境騎士団は、当然ながらその実力もイシュレア王国屈指のものだ。


そして、今この騎士団を率いているのが、


「これはサキ殿。

訓練に参加しに来られたのですかな?」


今私に声を掛けてきた左目を眼帯で覆ったこの壮年の騎士。

ワナイ騎士団長だ。


「いやいや、私なんかじゃここの訓練にはついていけないよ」


なんせ対帝国の最前線を守る騎士団だ。

その訓練の過酷さは尋常なものじゃない。


「サキ殿の身体能力なら、鍛えれば面白いことになると思いますがな。

まぁ、強制出来るものではないので、仕方ありませんが」


そう言ってくれるワナイ騎士団長の言葉を曖昧な笑みで誤魔化す。


そうなんだよね。

私は、ずっと自分の身体能力は人並みだと思っていたんだけど、実はそうじゃなかったらしい。

森の中を走り回っても、一晩徹夜したりしても全然元気なままだから、それなりに体力はあると思ってたけど。


筋力とかが足りないのは事実だけど、それ以外に関しては並の騎士以上だということが判明した。

どうやら、身近にいる人達、つまり元部下達を基準にして考えてしまっていたのが良くなかったみたい。


これは、この屋敷に来たばかりの頃。

例のごとく私に書類仕事をさせようとするスチュワートから、辺境伯邸の敷地内を縦横無尽に駆け回って逃げていたのを目撃したワナイ騎士団長に言われて気が付いた。


確かに、私の元部下達って国内最強レベルの騎士だもんな。

その人達と比べていたら、基準もおかしくなるよね。


でも、それ以来顔を合わせるとこうして騎士団の訓練に誘われるようになってしまったのは少し困りものだ。

まぁ、スチュワートほどこちらの言葉に聞く耳持たない感じではないのが救いだけど。


でも、私のちょっとした悩みの種であるワナイ騎士団長とスチュワート。

この二人がいるからこそ、対帝国の最前線であるはずのノフロン辺境伯領が長らく主不在でも大丈夫だった。

内政面はスチュワートが、そして軍事面ではワナイ騎士団長が。

それぞれ隙を見せることなく上手いことやってくれてた。


だったら、いっその事どちらかが辺境伯になればいいじゃないかとも思うんだけど、この二人にはその気が全くない。

それどころか、私を辺境伯にすることに関して結託しているような気がする。

薮蛇になるのが分かり切ってるから、絶対にその話には触れないけどね。


「せっかくのお誘いだけど、これからジェイク達と一緒に街に出るんで。

うちの連中っているかな?」


「あぁ、巡視に同行されるのですな。

うむ、街の者たちもサキ殿のお姿を見れば喜ぶでしょう。

特別部隊の面々でしたら、ほら、あそこにおりますぞ」


そう言って訓練場の一角を指差すワナイ騎士団長の視線の先を追って行けば。


ぐったりと地面に横たわる辺境騎士団の騎士達と、その横でご満悦の表情を浮かべるカレン。

そして、それを呆れたように見ている元部下達の姿があった。

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