出発の日
みんなとの別れを済ませてから二週間後。
今日は、いよいよ辺境へと出発する日だ。
先日寮を引き払った時に、退学届も学園長に提出しに行ったんだけど、何故か預かっておくとしか言ってもらえなかった。
もしかしたらナターニャ先生辺りが学園長に何か言ったのかもしれないけど、私は本当に退学扱いになってるのかは正直よくわからない。
まぁ、陛下からも話は行ってるはずだから大丈夫だとは思うけど。
何も思わないわけではないけど、どの道王都を離れる私にはもう関係ない話ではある。
そして、肝心の辺境行きに関してだけど。
結局、私と一緒に来るのは、元々の部下達と身の回りの世話をしてくれるための最低限の人数となった。
よくよく考えてみれば当たり前なんだけど、私がお世話になる予定の辺境伯の屋敷にだって普通に使用人はいるからね。
だから、レイシアとソフィアだけが私に付き添って、他の子達は王都の屋敷へと残ることになった。
まぁ、別に永久追放とかではないからね。
またいつか王都へと戻ってくることもあるだろうし、それまでみんなとはお別れだ。
「お嬢様、お気を付けて行ってらっしゃいませ」
「このお屋敷のことは、全て我らにお任せください」
「うん、頼むね。じゃあ、行って来るよ」
使用人一同を代表して挨拶をしてくれるアーシャとセバスチャンに、私も挨拶を返して馬車へと乗り込む。
続いてレイシアとソフィアも乗り込み、動き出した馬車を屋敷にいる全ての使用人達が頭を下げて見送ってくれている。
そう言えば、みんなとの関係性が変わって来たのはいつからだろう。
ほとんどの使用人達はずっと私に怯えていたし、私もそれが当然だと思っていたから全く気にしていなかった。
格安で雇えるから、屋敷の管理とかの人手として都合がいいっていうだけの理由で迎え入れていただけだったのに。
そもそも、全員の名前とかもきちんと覚えてなかったし、気に入らなかったら殺せばいいくらいにしか思っていなかった。
それが、ふと気がつけばみんな普通に私に話し掛けるようになっていたし、私も彼らの名前を呼んで話すようになっていた。
今ではみんな大切な私の身内で、殺すなんてとてもじゃないけど考えられないもんな。
でも、こういう変化も……うん、悪くない。
「またいつか、きちんと帰って来ないとね」
「当然ですわ!」
「それまで、サキ様のお世話は私達にお任せくださいね」
「うん、よろしく。頼りにしてるよ」
私の言葉に力強く二人が答えてくれるのが嬉しくて、自然と笑みが浮かぶ。
それに、二人も笑顔で答えてくれる。
またこうしてこの王都の屋敷でみんなと笑い合うためにも、まずは辺境での仕事をしっかりと終わらせよう。
きっと、それが私の大好きな人達の笑顔を守ることにもなるはずだから。
第二部 『魔女と学園』 ~完~
第三部へと続く




