学園での別れ
そうして翌日。
寮の引き払いと諸々の挨拶をする為に学園へとやって来た。
まずは学園長への挨拶を終え、廊下を歩いていると、背後から猛烈な勢いで迫る足音が聞こえる。
いやいや、ここは貴族の子女が大勢通う学園。
平民の子だっているけど、みんなお行儀は良い。
まさか廊下を全力疾走してくる子なんているはずがない。
そう思いつつ、一応振り返ってみると……。
「「ザギ様ああああああああぁぁぁ!!」」
いたよ。
全力疾走してくる子が。
「アンネ……。コーネリア……」
それも高位貴族の侯爵令嬢達だよ。
さらに、涙まで流してるもんだから、結構大変なことになってる。色々と。
「ザギ様あぁ……。学園を……ひっく……。
辞めてしまわれると言うのは……ぐすっ……。
本当なのでずがぁ……」
「ぞ、ぞんなの嫌でずわぁ……。うぅ……お辞めにならないでぐだざいまぜぇ……。ぐすっ……」
「あぁ、ほら二人とも落ち着きなって。
そんなに泣いて、可愛い顔が大変なことになってるよ?」
「「ふえええええぇぇぇぇぇぇん!!」」
なんとか落ち着かせようとするも、二人とも私にしがみついて大声で泣き始めてしまった。
そこまで寂しがってくれるのが嬉しくもあるけど、ここだと人目もあるしどうしたもんか。
「こらこら、二人とも。
淑女がそんな風に泣くものじゃないよ」
「そうですわ。
サキ様がお困りでしょう?」
途方に暮れる私の元へ現れた助け舟。
それはナタリーとリズベット嬢だ。
「ぐすっ……。だっでぇ……」
「ひっく……。寂し過ぎまずわぁ……」
「二人とも泣きやみなさいって。
もう会えないわけじゃないんだから。ね?」
私から離れようとしない二人の頭を撫でながら言い聞かせる。
「サキ。事情はお聞きしました。
私としても大変残念には思いますが……」
たぶん団長から全て聞いたんだろうな。
そう言うナタリーの表情も沈んでいる。
「まぁ、覚悟の上だったからね。
むしろこれくらいで済んで良かったなって思わないと」
「それは……そうかもしれませんが」
「うん、そうだよ。
だから、エフィーリア様の護衛。ここからはナタリーに任せるからね?」
「ええ、そちらに関してはお任せ下さい」
表情を引き締めて頷いてくれるナタリー。
うん、これならきっと大丈夫だ。
「リズベット嬢も元気で。
この二人のこともお願いね」
未だにしがみついたままのアンネとコーネリアにちらりと視線を向けつつ、リズベット嬢にもお願いする。
「もちろんですわ。学園を卒業するまでには立派な淑女にしてみせましょう。
ですから、サキ様もどうかお元気で」
「うん、ありがとう」
いつもの令嬢スマイルではなく、素の笑顔で頷いてくれるリズベット嬢に、私も頷く。
「ほら、アンネとコーネリアも。
いつも笑顔なのが二人でしょ?
今日は笑顔見せてくれないの?」
「うぅ……確かに……」
「サキ様の仰る通りですわね……」
ようやく私から離れると、ハンカチで涙を拭い、少しぎこちないながらも笑顔を浮かべてくれる。
「サキ様、きっとまたお会い出来ると信じておりますわ」
「ですから、どうかその日までお元気で」
「うん、ありがとう。みんなも元気でね」
最後には素敵な笑顔を見せてくれた四人に、私も笑顔で頷いた。




