辺境行き
「北の辺境伯領っていうと、例の?」
過去には私が辺境伯を捕らえたり、最近は最近で帝国関連でまた物騒なことになりそうなあそこ?
「ここからは私が説明しましょう」
私の質問に答えるように、宰相が前に出る。
「今回の件でもわかるように、最近どうも帝国に怪しい動きが見られます。
しかし、かの国の国土はとてもではありませんが豊かと言えるようなものではありません。
そのことなどを考えると、まだ軍を動員するなどの大きな動きは出来ないはずです。
しかし、それでも我が国に対し何かしら企んでいるのは間違いなさそうなのです」
「つまり、私にその監視をやれと?」
「えぇ、その通りです。
何より、サキ殿の名前は帝国でも広く知られています。
国境を接する辺境伯領に貴女がいてくれるだけでも充分な抑止力になるのです」
近衛の解任とか学園の退学とかはあくまでも表面上の処分で、本命はそれか。
辺境伯になるのを断り続けてる私を辺境に行かせるのに、今回のことを利用したってことね。
全く、言い出したのは陛下か、それとも宰相か。
上手いことやられたなって気はするけど、どちらにしろ今の私に選択権はないか。
「いいですよ、行きましょう。
辺境伯にはなりませんけどね」
その言葉に、陛下と宰相が苦笑いを浮かべる。
「素直に辺境伯になってくれれば向こうに行ってからもやりやすくなるとは思うんだが……。
まぁ、今は行ってくれるだけでよしとしておくか」
今はとかじゃなくて、この先もずっと辺境伯とかならないから。
爵位も領地もいりません。
「あぁ、それとな」
「まだなにか?」
これ以上なにをやらせる気だと警戒する私に、陛下は胡散臭い笑顔を向ける。
まぁ、胡散臭いってのは私の偏見かもだけど。
「お前の部隊、全員連れて行け。
王都に残して不満を溜められるより、サキの近くで思う存分働いてもらう方がこちらとしても助かる」
「え、良いんですか?」
私としてはめっちゃありがたいけど、あれ程の人材を辺境になんて行かせていいもんなの?
国内最強レベルの人達だよ?
「サキ」
執務室に入ってからずっと黙ってことの成り行きを見ていたガイエスさんが口を開く。
「どの道、あいつらはもうお前の命令しか聞かねえよ。
だから、遠慮せず連れてけ」
その言葉に、陛下も宰相も頷いている。
それ、もう近衛騎士ってより私の私兵じゃん。
でも、またみんなと一緒なのは素直に嬉しい。
「わかりました。
じゃあ、みんな連れて行きますね」
「あぁ。別に急ぐ必要はないが、なるべく早く向かってもらえると助かる」
「了解です」
さて、まずは屋敷に帰って学園の寮も引き払って……。
いや、まずはレイシアやエフィーリア様からの説教からかな……。




