私が斬り捨てられたとしても
「やってくれたな……」
ガイエスさんに連れられて陛下の執務室へとやって来ると、予想通りと言うか何と言うか、陛下はやっぱり頭を抱えていた。
「ええ、まぁやりました」
そんな私の返答に、深々とため息を吐く様子にほんの少しだけ申し訳ない気持ちにならなくもない。
本当に少しだけね。
なんてことを思いながら執務室の中を見渡す。
中にいるのは、私にガイエスさん。
頭を抱えている陛下と、めっちゃ渋い顔をしている宰相。
そしてもう一人。
無表情でこちらをじっと見ている壮年の男性。
ハーパー公爵だ。
いや、この場ではハーパー外務大臣と言うべきか。
実はハーパー公爵はイシュレア王国の外交を取り仕切る外務大臣なんだよね。
例の帝国の間者らしきフードの人物が、ハーパーを中心に接触していたのも、その辺が関係してるんだろうなと思う。
それにしても、まさか公爵本人が来てるとは思わなかったな。
静かにこちらを見ている様子からは息子をボコボコにされて怒り狂ってるという感じはしないけど、何せ相手は百戦錬磨の外交のプロ。
表情なんて幾らでも取り繕えるだろうから安心は出来ない。
まぁ、怒ってても私は全く気にはしないんだけど。
「一応聞くが、自分が何をしたかはわかってるな?」
「もちろん。
何なら言いましょうか?」
何の許可も取ってないから、貴族の拉致監禁、及び暴行。
他にも色々だな。私的に近衛を動かしたことにもなるし。
「いや、わかってるならいい。
と言うか、聞きたくないから言わないでくれ」
のほほんと答える私に、陛下は益々頭を抱える。
「サキ殿。
いくら貴女とは言え、これはさすがに何もなかったことに出来るようなことではありませんよ?
それはお分かりですか?」
眉間にこれでもかと言うほどに深い皺を作っている宰相が聞いてくるけど、そんなの当たり前だ。
「もちろんわかってるよ」
平然と答える私に、宰相の眉間の皺はさらに深くなっていく。
すごいな、どこまで深くなるんだろあれ。
「令息達が帝国の者と接触していたのは間違いないんだな?」
「うん。その辺はフレバンから報告させた通り。
詳しいことはマークが帰って来たら改めて報告を聞いてください」
「そうか……」
そしてじっと考え込む陛下。
中々話が進まないな。
「それで陛下?」
「なんだ?」
「もうさっさと話進めましょうよ。
とりあえず、私のことはどうしてくれても構わないんで。
ただ……」
そこで言葉を切ると、室内にいる全員を見渡しながら全身から殺気を溢れさせる。
その殺気に、陛下達は顔を青くし、ガイエスさんは咄嗟に剣の柄に手をやるのが見えた。
この距離だとガイエスさんの剣の方が速いか……。
まぁいいや。
「私の命令に従っただけの部下達や、何も知らない屋敷の使用人達に手を出すことは許さない」
せめてこれくらいは、ね。しておかないと。
私がこの場で斬り捨てられるのは仕方ないにしても、みんなは私の身勝手に巻き込まれただけなのだから。




