陛下への報告
「駄目だ。許可出来ない」
うん、たぶんそう言われると思ってた。
仕度を終え、学園の寮を急いで出た私は、王城で陛下に謁見している。
今この場にいるのは、私、陛下、宰相。
それに報告してくれたマークと先触れを出してくれたカレンだ。
それで、マークの口から報告内容を陛下に伝えてもらった後、ハーパー公爵令息を取り調べたいって申し出たんだけど、それに対しての陛下の返答が先程の言葉だ。
「相手が帝国方面に向かったというのは確かに気がかりだ。
だが、仮に帝国の人間であろうと何者なのかまではわかっていない現状で、仮にも公爵家の嫡男を取り調べなど認められるわけがないだろう」
「じゃあ、その場にいたっていう他の令息達は?」
「もちろん駄目だ」
ですよね、知ってました。
試しに言ってみたけど、やっぱり駄目か。
「調査は続けても構わないですよね?」
「あぁ、それはむしろこちらからも頼みたい」
「じゃあ、そう言うことだからマーク。
戻ったばっかで悪いんだけど、お願い出来る?
キースとフレバンと三人で例のフードのやつの身元の割り出しを」
「はい、お任せください」
そう言って頷いてくれるマークは、この国では珍しい褐色の肌をしている。
髪が白に近い灰色だから、余計にそれが引き立つんだよね。
なんでも、お祖母さんが南国の出身だとかで、その遺伝らしい。
「では陛下。御前を失礼致します」
「あぁ、よろしく頼むぞ」
そう言って退室していくマークを見送ると、再び陛下と向き合う。
「一応、すぐに動ける準備だけはしておきますよ。
だから、学園からは全員引き上げさせます。
それは良いですよね?」
当初は見回り組が始動するまでってことで学園に来ていたうちの隊員達だけど、陛下の指示でそのままみんな学園に残ってるんだよね。
もちろん、エフィーリア様の護衛としてだ。
「あぁ、認めよう」
だから一応陛下に一言断ったけど、それは問題ないらしい。
代わりに『影』とか動かしそうだけど。
「サキ殿」
「ん?」
珍しく宰相が声を掛けて来る。
私が陛下と話してる時は、陛下から何か聞かれない限り静かなことが多いのに。
「くれぐれも先走ることのないように私からもお願いします。
今の我が国の状況で、ハーパー公爵家にまで不穏な動きがあると知れ渡ってしまうと、どれだけの混乱が起きるかわかりませんので」
「うん、まぁそうだよね。わかった」
イシュレア王国の貴族達は、まだアーセル公爵家の取り潰しによる混乱から完全には立ち直れていない。
そんな中でまたしても他の公爵家、しかも陛下の信頼の厚いハーパー公爵家の嫡男がうちの部隊から取り調べを受けたなんてのが表沙汰になったら大騒ぎだ。
それくらいは私にもわかっている。
だけど、やっぱりどうしても気になるんだよなぁ。




