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必滅の魔女  作者: 坂井 ユキ
第二部 魔女と学園
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不穏な気配

「あれは……ハーパー?」


外套のフードを深く被っていたから、顔はチラリと見えただけだけど、間違いないと思う。

一緒にいた他の人達には見覚えはなかったけど。


「隊長、どうかしました?」


私がじっとそちらを見ていたのに気が付いたのか、カレンが小声で声を掛けてくる。

話に夢中になっている他のみんなは、私達の様子に気が付いてはいないみたいだけど、念の為私も声を潜めて答える。


「うん、あのさ。

今あっちにハーパーがいたんだよね。

どうにも様子が気になって」


貴族が平民街にいること自体は実は珍しいことではない。

今日の私達もそうだし、アンネやコーネリアだってお忍びで来ていたりする。

だけど、いつぞやの集まりで見た限りかなり選民意識の高そうだったハーパーがわざわざ自分で足を運ぶだろうか?

しかも、その向かっていた先は明らかに人気のないところだ。


「それは確かに気になりますね」


「あの先って何かあるっけ?」


「いえ、あちら方面はあまり豊かではない層が生活している場所です。

どう考えても貴族が行くような場所ではありませんね」


要するに貧民街みたいな場所ってことか。

あのハーパーがそんな場所に自ら足を運ぶなんて、どう考えでもおかしいな。


「なるほど……」


「どうします?」


「誰かすぐに動ける?」


「では、マークに尾行させましょう」


「うん、お願い。

出来ればどこで何をしていたかまで知りたい」


うちの隊員達も今日は駆り出されてるからね。

『影』と同様に完全に気配を消してるからどこにいるかまではわからないけど、近くにいるはずだ。

それに、マークならこういう尾行みたいな隠密性の高いことを頼むのには最適。


「サキ?カレン卿?どうかされました?」


私達が真面目な顔で、しかも小声でずっとやり取りをしていたからさすがに気が付いたようでエフィーリア様が小首を傾げながらこちらを見ている。

まぁ、私の場合無表情なだけだけど。


「いえ、なんでもありませんよ。

気にしないでください」


「はい!私服姿の隊長があまりにも可愛かっただけですので!」


「ふふっ。そうですね。

確かにとても素敵ですわ」


私達とエフィーリア様のやり取りが聞こえたらしく、他のみんなも微笑ましそうにこちらを見ている。

正直二人の言い分には物申したい気持ちもあるけど、せっかくみんな楽しんでるんだ。

最後の最後に余計なことを耳に入れて水を差したくないのでぐっと堪える。


それにしても、さっき見かけたハーパーは、明らかに人目を避けているように見えた。

どう考えても良いことをしようとしているとは思えない。

それがちょっとしたやんちゃ程度なら別に構わないんだけど、どうにも嫌な予感がして仕方がない。


表面上は何事もなかったようにみんなとの会話に加わりながらも、私はどうしても不安な気持ちが取り払えなかった。

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