明と暗
サバイバル合宿が終わってから数週間が過ぎた。
その間に、エフィーリア様達と進めていた見回り組も本格的に動きだし、表面上は貴族からの平民への虐めもなくなっている。
そんなわけで、学園生活は平穏そのもの。
うん、平和なのが一番だよ。
「サキ様……随分とご機嫌が良さそうですわね……」
「本当に……許せませんわ……」
平和を満喫している私に、まるで地を這うようなおどろおどろしい声が掛けられる。
せっかくの良い気分をぶち壊しにしてくるのは誰だと目をやれば、そこにいたのはテーブルに這い蹲るかのように突っ伏しているアンネとコーネリアの姿。
一応は侯爵令嬢っていう立場なのに、何て格好してんのさ。
「お二人とも、はしたないですわよ?
サキ様に八つ当たりはおやめなさいな」
ほら、リズベット嬢に怒られた。
今私達がいるのは、学園にあるカフェテリアに設けられた個室だ。
今日は一年生の見回り組で最近の様子とこれからのことについて話そうという名目で集まっている。
だから周囲の目が届きにくいとは言え、さすがにあの格好はない。
私だって屋敷で同じことしてたらアーシャ達にめっちゃ怒られるよ。
「そうだ。二人とも自業自得だろう?
いつまでも拗ねているものじゃないぞ」
ナタリーにまで怒られて、二人のほっぺたがどんどん膨らんでいく。
いや、可愛いとは思うけどそれもダメでしょ。
「ほら、とりあえず二人とも体起こしなさいって。
で?なんでそんなむくれてるわけ?」
私の言葉にようやく体を起こしはしたものの、視線を逸らしたまま答えようとしない。
「お二人とも、定期試験の結果が思ったようにいかなかったそうなのです。
それで落ち込んでしまっているのですわ」
アンネ達の代わりにクスクスと笑いながら答えてくれたのはエフィーリア様だ。
「エフィーリア様ぁ……」
「笑い事ではありませんわぁ……」
そんなエフィーリア様に、アンネとコーネリアが涙目で抗議している。
「どうしたのよ二人とも。試験勉強しなかったの?」
確かこの二人も成績は悪くなかったはずなんだけどな。
そう思って聞いてるのに、何故か露骨に目を逸らし続ける。
これは何かやましいことがあるな?
そう判断した私に、ナタリーが答えを教えてくれた。
「試験前にも関わらずかなり遊んでいたようだね?
それで疲れてしまって全く勉強出来なかったのだろう?」
「えぇ……本当に?それはさすがにどうなのよ」
「だ、だって仕方なかったのですわ!」
「そうですわ!仕方なかったのです!」
「何が仕方なかったのよ。話してみなさい」
言い訳をしようとする二人に、理由を話すように求めると、またまた目を逸らす。
本当にこの子達は……。
「……って、…………から、…………か」
何やらごにょごにょ言っているけど、声が小さすぎて聞き取れない。
「なにアンネ?聞こえないよ」
「うぅ……」
「ほら、怒らないから言ってみなって」
「だって……」
「うん、だって、なに?」
「だって、せっかく平民の皆さんと仲良くなったのですから、一緒に遊びたいではありませんか!」
あぁ、確かにサバイバル合宿を通してかなり仲良くなってたよね。
だからついつい羽目を外しすぎちゃったのか。
ん?でも待てよ?
「アンネとコーネリアが仲良くしてる子達は、みんな成績落としてなかったよね?」
「そ、それは……」
私の指摘にアンネが口篭ると、代わりとばかりにコーネリアが口を開く。
「あの方達、根本的にわたくし達とは頭の出来が違うのですわ!
試験勉強が出来なかったのは同じなはずですのに!」
あー、なるほど。
確かにみんな特待生で入って来てる優秀な子だもんね。
でもそれは勘違いだと思うぞ、コーネリア。
「でもね?あの子達は特待生だから成績を落とすわけにはいかないはずなんだよ。
そうですよね、エフィーリア様」
私の言葉にエフィーリア様が頷く。
そりゃそうだよ、だって特待生なんだもん。
成績が悪くなったら、学園に居られなくなるはずだ。
「つまり、みんなは遊んだ後でも頑張って勉強してたの。
それをしなくて成績を落としたのはアンネとコーネリアの二人の責任。
わかった?」
「「はい……」」
ようやく観念したのか、二人は大人しく頷いた。




