予想外の本性
「サキ!」
「サキさん!」
突然の出来事に、驚いた声で私の名前を呼ぶみんなの慌て具合とは裏腹に、私は落ち着いてその剣を持つ相手を見上げた。
何故なら、その剣には全く殺気が込められていなかったからだ。
だからこそ落ち着いていたんだけど、そこで私もフリーズする。
「……え?」
「もう充分だろ。やめておけ」
いや、知ってる人だし、こんな至近距離で見間違えることなんてさすがにありえないんだけど。
それでも、私の知っているその人と、今目の前にいる人とか結び付かない。
「ナターニャ先生?ですよね?」
そう。突然現れて私の首筋に剣を突きつけている人。
それは私達のクラス担任のナターニャ先生だった。
「見りゃわかるだろ。なんで疑問形なんだ?」
「いや、だって口調とか全然違うじゃないですか。
そっくりな別人かってレベルですよ」
私の言葉に、ナターニャ先生は今更気が付いたようにハッとする。
「いや、それは……。
急いでたからつい……。
ま、まぁ、そんなことより少しは落ち着いたか?」
「まぁ、そうですね」
突然の出来事に驚いて、毒気も抜かれてしまったのは事実。
さっきまでは昂っていた感情もすっかり落ち着いてしまった。
肝心の男子生徒達は恐怖に耐え切れなかったのか、泡を吹いて気絶してるし。
本当に情けない奴らだな。
ん?いや待って、これって……。
「もしかして先生。
こいつらに何かしました?」
「さて、なんの事やら?」
ジト目で訊ねる私に、ニヤッと笑うナターニャ先生。
ほら、やっぱり。こいつらの気絶は先生の仕業だ。
まぁ、いつの間にどうやって気絶させたのかは全然わかんないけど。
「ほら、そんなことより早く他の連中のところに行ってやれ。
みんな心配してるぞ?」
その言葉にみんなの方を向けば、なにが起きているのかわからないと言う様子ながらも、心配そうな顔でこちらを見ている。
本当は先生に聞きたいことが山のようにあるけど、今はあっちが優先かな。
「そうですね。今はそうします。
それと……一応お礼言っておきます。
止めてくれてありがとうございました」
頭に血が上って少し熱くなり過ぎていた自覚はある。
こいつらに対して力を振るおうとしたこと自体は後悔してないけど、みんなの前で見せていい事ではなかったよね。
刺激強過ぎるし。
「おう、気にすんな。これも私の仕事だ」
ナターニャ先生はニカッと笑うと、私の頭をぐしゃぐしゃと撫でる。
髪がぐちゃぐちゃになるからやめて欲しい。
そもそも、私は頭を撫でられるような年齢じゃないっての。
「じゃあ、私はみんなのとこに行きますね……おっと」
そう答えて、先生の手から抜け出すフリをしながらわざとバランスを崩す。
「ぐえっ」
私の足の下で、股間を思い切り踏まれたかのような変な声が聞こえた気がしたけど、きっと気のせいだ。
ほら、先生もめっちゃ肩震わせてるし。
まぁ、このくらいは別にいいでしょ?
「サキ!大丈夫でしたか?」
乱れた髪の毛を手櫛で直しながらみんなの元まで戻ると、エフィーリア様が目に涙を浮かべながら出迎えてくれた。
あぁ、エフィーリア様には二重の意味で心配をかけちゃったな。そんな顔をさせてしまって申し訳ない。
「髪の毛以外は問題ないですよ」
「もう、貴女という方は……」
呆れたように言うエフィーリア様に、姿勢を正して頭を下げる。
「ご心配をおかけして、申し訳ありませんでした」
そう謝る私に、エフィーリア様は今度は素晴らしい笑顔を見せてくれた。




