サキの怒り
「エフィーリア殿下、お下がりください。
この先は近衛騎士団特別部隊の仕事です」
敢えて殿下と呼び、部隊名を出すことでエフィーリア様には引いてもらう。
そもそも、こんな奴相手に王族の手を煩わす必要なんて全くないしね。
「フューリー嬢。大丈夫?」
「へっ?あ、はい……大丈夫です……」
「そう、それなら良かった」
普段とは完全に雰囲気が変わった私に驚きながらも頷くフューリー嬢。
同じグループの子達が手を貸してくれて起き上がれているし、特に怪我をした様子はなさそうだ。
とは言ってもここは足場の悪い森の中。
後できちんと見させてもらうけどね。
女の子なんだから、擦り傷でも残ったら可哀想だ。
「で、あんたら」
呆然と立ち竦む男子生徒達に目を向ける。
「ただの口喧嘩ならまだ良いよ。
でも、特にお前。フューリー嬢に何した?」
「ぼ、僕は別に……。この女が生意気なことを言うから!」
明らかに怯えながらも言い訳を口にする伯爵令息。
この期に及んでも謝る気はないようだ。
「少し聞いてたけど、フューリー嬢は何も間違ったことは言ってないよね?
見てみなさいよ。エフィーリア殿下だって協力し合って荷物持ってるんだよ」
そう言いながら私が視線を向ける先には、みんなと同じ荷物を背負ったエフィーリア様の姿。
それを見た男子生徒達が驚愕に目を見開く。
「王族だってきちんと荷物を背負ってるんだよ。
ここではみんなで助け合わないとダメなんだ。
それとも何?あんたらは王族より偉いってわけ?」
薄らと笑みを浮かべながら問い詰めると、手ぶらでいた三人が目を泳がせる。
「ほら、どうしたのよ。言い返してみなよ」
この状況だ。なんも反論出来ないでしょうよ。
それをわかってての私の言葉に、何も言えず黙り込む彼等を嘲るように笑う。
「それで?結局口では勝てないから暴力?
大荷物を担いだ女の子相手に?
それだけでも腹立たしいのにさ。
お前、倒れたフューリー嬢に何しようとした?」
「そ、それは……」
「一方的に暴力を奮ったんだ。
当然自分がそうされる覚悟もあるんだろうね?」
「ひっ!?や、やめろ!」
私の言ってる意味がわかったのか、怯えて後ずさる男子生徒達。
しかし、彼等が一歩下がるごとに私も一歩前に出るので、その差が縮まることはない。
「私の大切な仲間に手を出したんだ。
当然覚悟はできてるよね?」
私の目の前で、私の身内が怪我をするかもしれないようなのことをしてくれたんだ。
ただで済ませるつもりはもはや毛頭ない。
どんどんと後退り、遂には木の根に足を取られて無様に倒れ込んだ三人の前まで行くと、満面の笑みを浮かべて見下ろしてあげる。
「サキっ!なりません!堪えなさい!」
後ろからエフィーリア様の制止する声が聞こえる。
「大丈夫ですよ、エフィーリア様。こいつらは『絶対に死なない』ですから」
にぃっと口角を釣り上げる私に、ガタガタとだらしなく震えるだけしか出来ない男ども。
「さて、どうしてあげようか?まずは……」
『ダメええぇぇっ!!』
「……え?」
力ある言葉を発しようとしたその時。
突然頭の中に誰かの声が響き渡る。
「誰?」
周りを見渡すと、そんな私を他のみんなは不思議そうに見ている。
私にしか聞こえてない?
「まぁいいや。待たせてごめんね?
さぁ、遊ぼうか」
きっと気のせいだろう。
そう思うことにして、気を取り直して男子生徒達へと視線を向ける。
あぁ、いい表情だ。
涙を浮かべて口をパクパクとさせている様子に、私はさらに笑顔になる。
これからどれだけその顔を歪ませて楽しませてくれるのかな?実に楽しみだ。
そう期待しながら改めて力を振るおうとしたその瞬間だった。
「そこまでだ」
突然現れた人影が、私の首筋に剣を突きつけていた。




