言い争う影
突然森の奥から聞こえて来た声に足を止める。
そのままじっと耳を澄ませていると、そんな私に気が付いたみんなも立ち止まって辺りを見渡している。
「サキ?どうかなさいましたか?」
「ええ。ちょっと気になる声が聞こえて」
まだみんなは気が付いていないみたいだけど、間違いない。
少し離れたところから誰かが言い争っているような声が確かに聞こえた。
この時間なら他のグループも学園を目指しているだろうから誰かと会うのは不思議でも何でもないけど、これはちょっとめんどくさいな。
気にはなるんだけど、ここにはエフィーリア様がいる。
トラブルに巻き込んでしまって、万が一のことがあっては困る。
それなら、声を無視して学園に戻る方がいいのはわかってるんだけど、何となく聞こえた声に聞き覚えがある気がしたんだよね。
「サキ。気になるのでしたらそちらへと行ってみましょう。
お二人もそれでよろしいですか?」
私が悩んでいる間に、エフィーリア様が話を進めてしまう。
エミリーちゃん達も頷いているし。
「いや、でもエフィーリア様。
万が一のこともありえますし」
やはり護衛としての立場を優先するべきだと判断して反対する私に、エフィーリア様は首を振る。
「サキがそう言うということは、何か良くないことが起きているのでしょう?
それでしたら、余計に放っておく訳には参りません。
エミリーさんとニーナさんには申し訳ないとは思いますが」
「いえ!私達は大丈夫です!」
エフィーリア様の言葉に力強く頷く二人。
あぁ、くそ。
完全に言葉選びを間違えたな。
もっと慣れてる護衛役ならこういう時に上手く言えるんだろうけど。
自分の未熟さに腹が立つけど、もうこうなってしまっては仕方ない。
エフィーリア様はこういう時は一度言い出したら絶対に引かないのはこれまでの付き合いでわかってる。
だったら、私だけが様子を見に行く、というのもなしだ。この場にみんなを残して行けるわけもないんだから。
「わかりました。ですが、あくまでもご自分の身の安全を最優先にしてください。
良いですね?」
観念してみんなで行くことを決めた私の言葉に、エフィーリア様も頷く。
「エミリーちゃん達も同じだからね?」
「はい!」
平民ペアにも釘を刺してから、なるべく足音を消して声のした方へと向かっていく。
私以外の三人はそんなこと出来ないだろうからあまり意味はないけど、もうこれは癖みたいなもんだ。
そのまま歩いて行くと、やがて言い争う声がはっきりと聞こえて来る。
あぁ、やっぱりこの声は間違いない。
他の三人も声に気が付いたのだろう。
あっという顔をしている。
そうして立ち並ぶ木々の合い間を抜けると、睨み合いながら言い争う二組の人影が見えて来た。




