10話 親バカ二人は孫の顔が見たくてしょうがない
ユークリッドは一人、執務室で深い溜息をついていた。
セシールは今、定期的なエルピス村での滞在期間にあるため、後宮にはいない。
先日の、子作りをしようという話になった時のセシールの反応を見て、当分の間、セシールとの子作りはお預けになるのだと思い知ったユークリッド。
無理だと分かればそれでいいのだ、最初から期待しなければ、まだ理性は保ってくれるのだから。
けれど、せっついてくる両親にどう言い訳したものか。
婚約を結んでから二週間過ぎて、何の"コト"も致して、否、致シていないなど。
「「あんたは子どもかーーーーーッ!!」」
案の定、両親から怒鳴られてしまった。
「気絶してるからなんぞや!むしろ下手に抵抗しないぶん楽にヤれるだろうが!」
身も蓋もないことを堂々と言ってのけるのは父――『エルギス』。
「もういっそのこと、強引に押し倒した方が効果的なんじゃないかしら」
手順とか過程とかそんなモン全部すっ飛ばせと言うのは母――『フローレンス』。
「お、押し倒っ……!?いえっ、母上、それは些か性急に過ぎるのでは……」
さすがにそれはどうなのかと抵抗するユークリッドだが、この親バカ二人は聞いていない。
「下手に愉しませようとかするから、セシールちゃんは気絶するのよ。最短最速でイかせてあげればいいんじゃないかしら。ねぇ、あなた」
「うむ。"初めて"と言うのはどうしても抵抗感があるものだろう。ならば手っ取り早く"初めて"を終えてしまえば良いのだ。そうすればその後でいくらでも……」
「いやいやいやいやいやいやいやいやいやいや、待ってください二人とも、その尺度は色々とおかしいです」
ユークリッドも今に至るまでの教育で、アルファルド皇国の歴代国王については知っているが、エルギスとフローレンスは過去に例が無いほどアツアツな夫妻である。
ようするにこの二人、息子の色恋沙汰に興味津々なのだ。
しかしそれがあまりにも遅々として進まないので、ついに堪忍袋の緒が切レたのだ。
「このバカ息子、チンチンタラタラしてないでとっととヤらんかい。お前の股間にぶら下がってる豚の腸詰めは飾りか?」
エルギスはびしすとユークリッドの"ソレ"を指差す。
「父上、その言い方はR-15の範疇を越えそうで危険です、ご自重なさってください。あと、私の"コレ"は飾りではなくきちんと反応もしてくれるのでご心配なく」
それはともかくと、ユークリッドは咳払いを挟んでから。
「もしも一方的かつ強引に迫って、セシールの心が壊れてしまったらどうするのですか。元より、彼女は婚約者にも実父からも拒絶、追放され、流浪の辛苦の果てに若くして村長をやらざるを得なかったのです。ならば私は、セシールの寄る辺、あるいは器になってやるべきだと……」
「青臭いこと言ってないで、とりあえず一発ヤってこい。話はそれからだ」
「人の話聞いてたんですかこのヤ○チン親父」
R-15の範疇を越えてるのはどっちなんだか。
「ともかく、私には私の、セシールにはセシールのペースというものがあります。焦らずにじっくり関係を進めますので……」
一方のセシールはと言えば。
エルピス村の滞在期間にある間に、セシールは補佐役達を集めて、"緊急会議"を開いた。
「さて、皆さんに集まっていただいたのは他でもありません。わたしは今、ひとつの壁に直面しています」
「ご懐妊おめでとうございます、セシール様!」
若い女性の一人が、セシールが何を言うでもなく、祝福の声を上げた。
それを聞いた他の補佐役達も次々に「おめでとうございます!」と祝福してくれる。
が、それは大間違いである。
「ち、ちちち違います!それは"まだ"です!」
「「「「「え」」」」」
懐妊表明だと思っていた補佐役達は、次の瞬間には「なーんだ……」と落胆する。実に訓練された反応である。
「そ、そんなあからさまに落ち込まないでください、わたしにとっては大事なことですから」
ここで解散されても困るのである。セシールにとっても、ユークリッドにとっても。
「つまりですね、わたしとユークリッド様は、いずれ……こ、子作り、をするわけになるのですが……こ、子作りをするということは、つまり、雌蕊と雄蕊を合わせて……」
「セシール様、遠回しなこと言ってないで、早くヤってしまえばいいのでは?」
人がせっかく当たり障りないように事態を説明しようとしているというのに。
「い、いえっ、その、その通りと言えば、その通りですけど、ですけど……」
「あ、もしかして、ユークリッド皇子って、奥手過ぎてヘタレだったりするんですか?」
この瞬間、どっかのヘタレ皇子はくしゃみをぶちかましたのだが、それはまた別のお話。
「そ、そういうわけでもなくて……いや、そういうわけでもあるかもしれませんけど」
では、どういうわけなのかと言えば。
「わたしは、その……キ、キちゅ、とかされると、すぐに気絶してしまうことが多くて……この間も、ユークリッド様と子作りの話になった時に、ついうっかり気絶してしまって……わ、わたしとしては、ユークリッド様との子どもがほしいと思っていますよ?で、でも、その、子作りのためには、お互いの、その……は、は、恥ずかしいところを、見せ合わなければならないわけで……」
なにこのかわいい生き物。
真っ赤になって頭から湯気が出そうになっているセシールを、補佐役達はそう評した。
しかしこれでは、セシールはモジモジしてばかりで、肝心なところには進めないだろう。
「セシール様、ここは思い切って一発ヤってみましょう」
「ふぁっ!?」
あまりにもぶっちゃけ過ぎる意見に、セシールは首から上が炸裂する。
「一皮剥けば男は等しく狼と言いますし、いっそユークリッド皇子に全部お任せするのもいいかもしれませんね」
「ふぁっ!!??」
お任せとは一体。
お任せした結果どうなるか分からないから、こうして緊急会議を開いているというのに。
「大丈夫です!セシール様ほどの美少女とヤりたくない男なんていません!なんなら女でもシたいと思っ……」
「ふぁっ!!!???」
このままでは別のタグが必要になりかねない。
……ではなく、このままではまた気絶しかねないので。
「い、一旦!休憩、休憩にしましょう!わたしは外の空気を吸ってきますので!!」
セシールはまくしたてるように休憩時間にして、逃げるように執務室を後にしていった。
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