公爵様!切り刻んじゃダメです
需要ありますかね~
「…一人で桃色雰囲気撒き散らして気持ち悪っっって…人の縁を切り刻もうとするんじゃないよっ」
不意に聞こえた不快な声に、先程までの幸せなひとときを台無しにされ苛立ちを顕にしてしまう。
「…チッ」
「舌打ちーー!不敬だよ不敬!」
やはり糸屑さえ残らないように刻もうと魔力を込める。
「そのくらいにしておきなさい」
正に切り刻もうとした縁の糸、いや、より強固に結び付き昇華し縁織となった稀有な縁がふわりと魔力を帯び煌めく。
「自分が不甲斐ないのに、殿下に当たるなど情けない」
喚き散らす男の横に、苦言を呈した女が並び立つ。待っていたかのように二人の手首の縁織が揃いの魔力を帯びる。
この世でお互いが唯一と主張するかのごとくたなびく様は、いつ見ても美しいが忌々しくもある。
「ヘタレなのがいけないんだよ。僕はエリーの心を得るのになりふり構わず頑張ったよ」
いや、構わなさすぎてどれだけ周りが迷惑を被ったと思っているんだ。
皇太子という身分にもかかわらず、起こした数々の事件を思いだし殺意がわく。
相手が自分の姉でなければ、皇太子であれど、即刻存在ごと切り刻んで糸屑さえも残さずにしていたと思う位に振り回された。
「殿下、妃殿下、主賓のお二人が夜会を中座してまで覗き見とは…いささか品位を疑いますが」
「あら、大丈夫よ。クレアが絡まった縁の糸をほどいたうえ、糸屑さえも残さずにあなたが切り刻んだお陰で、今頃、夜会はかつてないほど良縁を求めて縁の糸が発現してるわ。既婚者なんてお邪魔なだけ」
「私たちを利用したんですね」
「久しぶりに可愛い妹だと思っているクレアに会いたかっただけよ」
いつもは手を回して、クレアが若い男女多数集まるような夜会には極力参加しないようにしている。
まして今日のような出会いを目的とするような夜会などあり得ない。
会場にいないはずのクレアがいたのは殿下と姉上のせいか。
「いつまでも縁付かない君に恋慕する令嬢が多すぎて、令嬢達の保護者やまだ婚約者のいない令息たちから陳情が上がっていたのだよ。このままだといつまでも結婚できず家の存続に関わると」
急に皇太子然とした口調に苛立つ。
「それに君だけの問題ではない。この国にとって、クレアの力は祝福となることが多いが、脅威となることもあり得る」
そんなことはわかっている。
「いい加減、ぬるま湯に浸かった恋愛ごっこはやめなさい。アレン、あなたが動かないなら私達が動きます」
殿下と姉上は本気だ。
最近鳥の巣に混じっている縁の糸とは違う何か。
何かが起こり始めているのだろう。
真綿で包み込むように、優しくゆっくりと縁の糸を固く結び、いつか縁織に昇華するところを二人で見たかったのに。
「御心のままに。我が君」
礼をとり、その場を辞し歩を進める。
いつか君と揃いの魔力を帯びた縁織を紡ぐために。
登場人物が勝手に動いていきまする