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死神

遅くなって申し訳ありあせん!

引っ越しでWIFIの準備ができておらず投稿できませんでした!

「領主様がお呼びだ。突然ですまないがご同行願いたい」


そんな命令を受けてから1時間ほど経過した。

ゴトゴト馬車に揺られながら、ハルキは浮かない顔をする。


呼び出しに来た役人曰く、ルナを一目見た領主が興味を持ったのだという。

ハルキ達と伝令の命を受けた役人は馬車で領主の城に向かっていた。

つまり一夜を共にしたいということだ。


この世界は技術水準こそ地球と同程度ながら、社会や倫理の面ではかなり遅れている。

権力者が町娘を慰み者にするというのはこの世界ではそれなりにある話であった。

ある程度はこの世界の常識に合わせるつもりのハルキだが、流石にこればかりは看過できない。

故に抗議したかったのだが、領主と事を起こすには準備が足りない。そのため何とか役人を言いくるめて城まで同行させてもらうことになった。

ちなみにルナはというと、そのあたり疎いのか内容を深く理解しないままここまで来ている。美味しいご飯でもご馳走してもらえるのかななどと考えているのだろう。やけにはしゃいでいた。


途中服屋に寄りつつもまっすぐハルキ達は城へと向かった。






領主の城。堅牢な石壁に囲まれたそれは、見るからに攻めにくそうだ。

魔物との戦闘を意識して作られており、街の住民を保護するのに十分な機能を有している。

先代領主が設計したものだという。

そんな城の前に一台の馬車が止まった。

先に姿を現したのは白の少女。白肌白髪に純白のワンピース。飛ぶように地面に下り立つ姿は幼げで、門前の兵達の表情もほころんだ。しかしこんな純粋無垢な少女が慰み者になると思うとその顔を曇らせる。

来客は彼女一人の予定だ。次いで降りてくる役人の姿を確認し、城門を開く。


「行こう、ハルキ!」


ふとそんな声が兵の耳に入る。どういうことか、まだ来客はいるらしい。振り返ってみると、その人物にみな目が釘付けになった。


黒。短めの黒髪に装飾のある黒いワンピース。馬車から降りる姿すら優美で、高貴な家の出であると察せられる。なにより特筆すべきはその美貌。白の少女を野に咲く百合に例えるなら、こちらは夜闇に香る薔薇である。男を知っている、雄を引き付ける、そんな顔だ。


ハルキと呼ばれた『黒の少女』は馬車を見送ると、城門に向かい優雅に一礼する。なにごとかと後ろを見ると、そこには領主の姿があった。慌てて敬礼する兵達。


「私が呼んだのは白い女子おなごのみのはずだが」

「申し訳ありません。私、ハルキと申します。彼女、ルナの友人でして、一人では『夜のほう』が不安ということで同行させていただきました」


低く落ち着きのある声。少女とも少年ともとれるそれは、不思議と彼女の魅力を引き立てていた。


「……なるほど。まあ良い。見てくれは好みだ。お前も相手にしてやろう」

「ありがとうございます」


太ったヒキガエルのような領主は下卑た視線でハルキを嘗め回す。意外にも本命であるはずのルナには見向きもしない。


ハルキの打った策。それは見ての通り女装である。

女装といっても軽いメイクと服を変えただけなのだが。

ちなみに服の装飾は城までの移動中に自身で縫い上げた。もとはシンプルなワンピースである。


策の結果は御覧の通り。ハルキの狙い通り二人で入城することができた。

これでルナを守れるわけだが、領主の反応から見てむしろ自身の身を守らなくてはいけないのかもしれない。気が重くなるが、とりあえず当初の目的は達成できた。


二人は案内を受け客室に通される。夜まではここで自由に過ごしていいとのことだ。


「わあ! すっごいお部屋! ベットもふかふかだあ!」


城は内外で印象が大きく異なっていた。

内側は豪華な作りであり、異常なほど装飾が凝っている。ハルキに言わせれば下品この上ない。

しかしルナは素直に驚き、ベッドに飛び込んで無邪気に笑っていた。

滞在は一晩の予定だ。それまで彼女を守り切ろうと気を引き締める。


部屋に入り少しすると、ノックのあと先ほどの役人が入ってくる。その後ろには黒衣の男を連れていた。

役人には男の誘導を頼んでいたのだ。

さすがに男を宿に残していくのは気が引ける。しかし浮浪者を領主の前に出すのは問題だろう。そう考えた役人は馬車に入れたままの入城を提案した。

この件については男を保護者として領主に報告し許可は取っているとのことだ。

ハルキはそれをありがたいと思いつつ、警備が甘すぎるとも感じていた。

そもそも、目の前の役人もそうだが、全体的にやる気がないのである。

あまり尊敬されるような領主ではないのだろう。


役人が去ると二人は談笑しながら時を過ごした。

時折提供されるお菓子をつまみつつ、ルナはふと思ったことを口にする。


「ハルキってさ、すっごく可愛いよね」

「そうでしょう? 色々頑張ってるんだ」


女装し容姿を褒められて、並みの美少年なら赤面の一つでもしてみせるだろう。

しかし彼は並ではない。世界を跨いでもなお魅力が通用するほどの容姿なのである。

万人に好かれる容姿を研究し、それに近づくよう様々な努力をしてきたのだ。

整形手術こそしていないものの、自身の成長を調整し、高度なケアも欠かさず行っている。

故に彼は美少年足りえているのだ。それに誇りすら持っている。


「でも気を付けてね。あんまり可愛すぎると悪い大人に捕まっちゃうらしいから」

「……そうだね」


今まさにそういう目に合ってるの!と内心ツッコミつつ、どういう教育を受けたのか疑問に思うハルキであった。


そんな和やかな談笑の中でも彼は警戒を解いていない。

だからこそ、近づいてくる足音が使用人や兵士のそれではないことに瞬時に気づいた。

ハルキがルナの前に立つと同時に無遠慮に扉が蹴り開けられた。


「おいおい嘘でしょ、純血の『天使』なの? こりゃ予備はいらなくなるね」


現れたのは見覚えのある丸の中に三角マークが刻まれた、黒衣を纏う優男だった。

黒い短髪に優しげな容姿であるという以外、これといった特徴はない男だ。

ハルキには目もくれず、ルナだけをその瞳に捉えていた。


線は細く武の気配もない。しかし不思議と鳥肌が立つような圧迫感を覚えた。

ハルキは体を半身に構え迎え撃つ姿勢をとる。


「貴方は一体――」

「死ね」


瞬間、両者の間に鈍い音が響く。


「は?」

「ルナ、逃げるよ!」


優男の膝が砕ける音であった。

ソフィアの剣にも並びうる速度の優男の蹴り。それをハルキの掌底が迎撃した結果であった。

次の瞬間にはルナの手を引き背後の窓を突き破る。

ルナも意図を察したのだろう。すぐさま翼を展開し、大空へ逃げた。

しかし


「それはなんとも生意気な名だね」


ハルキはルナに手を引かれながらもとっさに防御の姿勢を取る。

次いで来るのは衝撃。訳も分からぬままハルキは地面に叩きつけられた。

受け身を取りつつ状況把握に努める。


優男はハルキの後を追うように地面に着地する。

受け身でもしなければ骨折しかねない高さだった。現にそのまま着地した優男の足はめちゃくちゃな方向に曲がり周囲は血だらけである。

しかし、それらの傷は数秒もたたずにもとに戻ってしまう。

膝を砕かれながらも追いつけたのはこの能力のおかげなのだろう。

魔術でも使っているのか身体能力も人間離れしている。


それに対し、ハルキは左腕を抑え苦痛に耐える。完全に折れていた。

少年の幼い体はいともたやすく壊れてしまう。故に普段は防御など決してしないのだが、今回ばかりは必要であった。胴に当たれば即死していたであろう。

傍にルナが下りるが、逃げるよりも捕まるほうが早いことはたやすく想像できる。

苦痛に耐えながらも隙を作るためハルキは会話を試みた。


「貴方、ノーティス教徒でしょう? こんなことして教義に反しているとは思わないんですか?」

「そんなの偶像もいいとこだ。従うやつは信仰心が足りないのさ」

「なぜ俺たちを襲うんです? 話し合いで解決できないんですか?」

「話し合い? 僕の方が強いのに?」

「俺たちのバックには剣聖がいますよ。俺に勝てても、貴方がソフィアさんに勝てるとは思えない」


優男は剣聖という単語に心底面倒くさそうに顔をしかめた。

しかしそれだけで、躊躇うことなく歩を進める。

それすなわち剣聖とすら戦えるという自信がある証拠。

ならばもはや勝ち目はない。


「貴方の目的は、私? なんで?」


戸惑いを含むルナのその言葉に優男は怪訝そうな顔をする。


「親御さんから何も聞いてないのかい?」

「……小さな頃に死んじゃったから」

「天使が? かつての大戦時じゃあるまいし。君らに寿命なんてないだろう?」


そこまで言い切って、ふと何かに気づいたように優男は歩みを止める。


「……いや、そもそも天使に神――」


その疑問は彼にとってよほど重要なものだったのだろう。

意識が完全に内面に向いていた。

それを隙とみたハルキが一か八かの賭けに出る。


優男の能力は異常ではあるものの、その体の強度は常人となんら変わらない。

ならばルナが逃げる準備をするまでの間両足を砕き続ければいい。

そうすれば多少の時間は稼げるかもしれない。

運よく相手は武の心得を持たないらしい。片腕が使えない現状ではハイリスクだが、これしか方法はなかった。


ハルキは一歩踏み出す。その瞬間――優男の胸部が爆ぜた。

耳が痛くなるほどの轟音が場を支配する。

ハルキには聞き慣れた破裂音。それを十数倍にはね上げたような爆音であった。

二人は自然と轟音の出所を見る。


割れた窓ガラスの先。硝煙をくゆらせる黒鉄を持つのは、病的なまでにやせ細った手。

みすぼらしい黒衣を身に纏う男は、死神のような瞳で標的を捉えていた。



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