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今はまだ遠い場所

縦読みの方が読みやすいかも?

高く、高く。

山を越えて、雲を越えて、まだ高く。

月に届けと願いながら、私は翼をはためかせる。

徐々に翼が重くなるけど力を振り絞った。


風は強くて、冷たくて。

月にはまだまだ届かない。

だけど、叫んだ。


 お父さん、お母さん。

 私はこんなに大きくなったよ。

 産んでもらえて、育ててもらえて。

 たくさん愛されてきました。

 幸せ者です。

 だから、たくさん、たくさん、ありがとうを伝えたいの。

 ——私の声、届いてますか。


白い吐息に溶けた言葉は、風に流れて掻き消えた。


両親のお墓は、ネムルの山頂にあるらしい。

ネムルというのは、頂上が月に届くなんて言い伝えのある大きな山だ。

とてもとても遠い場所にあって、旅にでも出なきゃ登れない。

それでも私は、少しでも近づきたくて月を目指すんだ。

声だけなら届くかも、なんて思いながら。


でも、今日もだめみたいだ。


「あ」


一瞬の浮遊感。

次いで重力に掴まれた感覚。

疲れ切った翼ではこれ以上登れない。

いつの間にか翼は消えて、私は真っ逆さまに落ちた。

風切り音に混じり、今日投げられた言葉が蘇る。


 ネムルに登りたい? 餓鬼にできるわけなねぇだろ。

 女の子には難しいよ。代わりに縫い物なんてどう?

 戦えるって……魔物との戦いは遊びじゃないんだ。


ネムルへの旅には、最低でも一人の仲間が必要になる。

これはその仲間を探していた時の言葉だ。

私だって剣の練習は頑張ってるし、魔術の腕は学校から招待状がくるほどだ。

それなのに、女だから子供だからと相手にしてもらえない。

正直、ちょっとモヤモヤする。


早く旅に出たい。

魔術学校への入学は来年だ。時間はあまりない。

早く仲間を見つけないと。


地上まで残り数分。

その間、私はいつものように月を眺めていた。

地上よりも近い月。それがどんどん離れていく。

まるで、私の夢は叶わないと言われたみたいだった。


負けるもんか。

お父さんとお母さんにありがとうって伝えるんだ。

今に見ててと月へと手を伸ばす。


その時だった。


——夜空に大穴が穿たれた。

無知な私ではそうとしか表現できない現象だった。

驚きのあまり目を皿にして見つめる。

これはいったい何なのか思案をする間すらこの世界は与えてくれない。

穴の向こう、もう一つの夜空から小さな人影が飛び出してきたのだ。

まるで糸の切れた操り人形のように力なく落下する。


意識があるのかこちらを見つめていた。

その瞳はあまりにも綺麗で、優しくて。

この状況が異常だということにすら、すぐには気づけなかった。

次第にその子は目を閉じる。


それから先、私は夢から覚めたように慌てた。

何が起こっているのか、どうすれば彼は助かるのか、そんなことで頭がいっぱいになる。


この時はまだ、その出会いがどのような意味を持つのか考えもしなかった。

挿絵(By みてみん)


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