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夕日を見ながら幼馴染な後輩の夕日に告白してみた

作者: 久野真一
掲載日:2022/12/12

「こうしてぼーっと夕日を眺めるのもいいですね……」


 冬に入ったばかりの12月初旬。人気がない小さな小さな公園のベンチにて。

 俺と夕日(ゆうひ)は夕日が空の向こうに沈むのをただただ、

 ぼーっと眺めていた。言っておくけどダジャレじゃないからな。


「だろ。期末テストの勉強で疲れた頭休めるのにもってこいって奴だ」


 あと一週間ほどで俺たちの高校では期末テストが行われる。

 曲がりなりにも県下一(けんかいち)の進学校だ。

 高校生にもなるとテストの難易度もあがってきて準備にも時間を取られる。

 しかも、期末テスト一週間前から部活は原則禁止。


 というわけで、俺たち二人はここ数日テスト勉強に身を入れていた。

 彼女、朝野夕日(あさのゆうひ)は一年下の後輩。

 いわゆる幼馴染の間柄って奴だ。

 俺と同じく優等生な夕日もまた成績を落とすまいと勉強に必死だった。


「このまま頭空っぽにしちゃいたいくらいです」

「空っぽになったら試験当日に困るだろ」

「わかってますよ。それくらい」


 野暮なことを言わないでくださいと言いながらも機嫌は良さそうだ。


「しっかし、期末テストが終わったらもう年末だろ。あっという間だったな」


 高校二年生の一年間を振り返る。

 部活動に修学旅行、文化祭とイベントは目白押しだった。

 

「先輩はこの一年間楽しかったですか?」


 ちらりと目線を寄越してふにゃりとした笑顔で聞いてくる夕日。

 

「ああ、文句なしに楽しかったよ。特に文化祭は最高だったな」


 俺たちの部活は文芸部で普段は適当に遊ぶだけのいい加減な部活だ。

 でも、文化祭ともなれば展示物にも力を入れたもんだ。


「先輩が作った文芸クイズは好評でしたよね」

「苦労して物理ボタンまで作り込んだかいがあったな。ふふん」

「私が手伝ったの忘れちゃったんですか?」


 クイズプログラム担当は俺だったけど回答ボタンをどうするかが問題だった。

 マウスをクリックするのでもいいけど、せっかくの展示物でそれは味気ない。

 そこに助け舟を出してくれたのが夕日だった。

 電子工作知識を生かしてパソコンと接続できるボタンを作ってくれたのだ。


「もちろん覚えてるって。効果音も本格的だったし、本当に夕日様々だよ」

「褒めても何も出ませんよ」

「感謝してるのは本当だって。大人しく受け取っとけ」


 ま、二人であーでもないこーでもないと頭を悩ませる時間は楽しかった。


「なら、私もありがとうございます。先輩が引退する前にいい思い出になりました」


 夕日を見上げる夕日(ゆうひ)はどこか寂しそうだ。

 俺が引退した後の部活のことを考えているんだろう。


「ま、受験生になっても部室にはちょくちょく顔出すから元気出せ」


 可愛い妹分の頭を優しく撫でつける。


「そういう風にすぐ私の髪撫でるのやめてくださいよ」

「嫌そうならやめるけど」

「嫌じゃないから困るんですよ」

「ならいいじゃないか」

「よくないです」


(いい雰囲気だな)


 一歳下の夕日は何故だか子どもの頃から俺を慕ってきたものだった。

 それは俺が中学生になっても、高校生になっても続いた。

 おまけに部活まで俺と同じところに入りたがる。

 でも、それが嫌じゃないどころか嬉しい俺がいるわけで。

 この後輩のことがたまらなく好きなのだと強く実感する。


「なあ。受験生になる前に言っておきたいことがあったんだ。聞いてくれるか?」

「先輩にはいっぱい借りがありますからね。何でもどうぞ」

「夕日。お前のことが好きだ。付き合って欲しい」


 いつ言おうかずっと悩んでいたことだった。

 慕ってくれているのは本当でも男女としてのそれじゃないかもしれない。

 想いを告げたら距離を取られるかもしれない。

 そう考えたのは一度や二度じゃない。


 でも、彼女と一緒の高校に通えるのはあと一年ちょっと。

 来年の四月からは受験勉強もあるから実際にあっという間だろう。

 卒業してから後悔だけはしたくなかった。

 それと。今のいい雰囲気なら勇気を出せる気がしたのだ。

 

「……ありがとうございます。理由、聞いてもいいですか?」


 夕日はといえば至って平然とした表情だ。

 もっと驚くかと思っていたのだけど、微笑みすら浮かべている。


「もちろんだ。でも、驚かなかったのは意外だ」

「驚きはしてますよ。それよりも知りたいんです」

「知りたい?」

「先輩が私のどんなところを見てくれたのか」


 気がつけば俺の方に向き直ってじっと見つめてくる夕日。

 その様子はまるで一言一句も聞き漏らすまいとするかのように。


「そうだな……小学校の頃に遡るけどいいか?」


 きっかけをたどればささいなことだ。


「小学校ですか。私はいつも先輩の教室に遊びに行ってましたね」

「おかげで六年のときは随分からかわれたの覚えてるぞ」


 誰が誰を好きだとかそんな話だって話題になる年齢だ。

 一学年下の可愛い女子がしょっちゅうやって来るとなれば騒ぐ奴もいた。


「先輩は「お前たちには関係ないだろ」の一言で黙らせてましたけどね」


 その時のことを思い出したんだろうか。

 くすくすと小さく声を漏らしている。


「だって正直鬱陶しかったんだよ。囃し立ててくるやつもいるしさ」


 最初は我慢していたけど、何も言わずにいるとどんどん調子に乗る奴がいた。

 だから、俺は言ったんだ。

 「お前たちには関係ないだろ。いちいち変なこと言って夕日を困らせるな」

 って。


「私のために言ってくれたんですよね。嬉しかったですよ」

「俺が鬱陶しかったのも本音だけどな。囃し立てられたら夕日だって来づらいだろ」

「先輩は昔から優しいですよね」


 やっぱり微笑みを浮かべながらじっと見つめてくる。


「話戻すけどさ。あの頃って正直、周りの話題が心底どうでも良かったんだよ」


 世の中にはもっと面白いことがいっぱい転がっているのに。

 やれYouTuberの誰さんがどうだとか。

 あるいはInstagramがどうだとか興味が持てないことで盛り上がっていた。


「あの頃の先輩って一匹狼っていうか、外から見てた感がすごかったですよね」

「ま、それは見立て通りだけどな。でも、夕日は違った」


 難しい話題について俺と話し合うこともあれば、

 一緒に新しいゲームを開発して喧々諤々の議論をしたこともあった。

 野山に出て植物や昆虫を観察することだってあった。


「私も無理してクラスメイトに合わせてましたから、楽しかったんです」

「ま、ともあれ、話題が合うし一緒に色々なものを作ったりもした。で、その頃からぶっちゃけ可愛かったし、好きになるなってのが無理だろ」


 開き直ってしまえば不思議と口をついて出ていた。


「も、もう……すっごく嬉しいんですけど、そこまで言われると照れちゃいますよ」

「理由を聞いてきたのは夕日だろ」

「そうなんですけど……わかりました。今度は私の理由、聞いてくれますか?」


 今度は、か。つまりは。


「もちろん。って、好きの理由でいいんだよな」

「はい。もちろんですよ。私って小三の頃引っ越してきたじゃないですか」

「そうだったな。マンションの一階下だから引っ越しの挨拶も来てたっけ」


 彼女とお母さん、お父さん。

 三人で手土産片手に挨拶に来たのは今でも覚えている。


「で、人見知りだった私は挨拶だけして、さっさと引っ込んじゃったわけですけど」

「あの時は嫌われたかーと凹んだの覚えてるぞ」


 ただ、その数日後だった。


「だからちゃんと反省して、お菓子持って遊びに行ったじゃないですか」

「覚えてる、覚えてる。母さんたちが居なかったから二人きりだったんだよな」


 初対面で嫌われたと思っていた女の子が一人で訪ねてくるもんだから驚きだった。

 で、どんな会話をしたかと言えば。


「その時に、先輩がどんな言葉かけてくれたのか覚えてます?」

「んー。引っ越してきたばっかりだけど、寂しくないか?とかそんなんだったよな」

「ですです。寂しいのは本音だったから、気遣ってもらえて嬉しかったんですよ」


 確かに、その後は引っ越してくる前の境遇を色々語ってくれたっけ。

 父親が転勤族だから幼稚園のときも、小学校一年の終わりにも、それから小学校二年の終わりにも引っ越さなきゃいけなかった。もう慣れてるけど、友達が出来たとおもったら離れ離れになるのは寂しいのだと暗い顔でつぶやいていたのを覚えている。


「それがきっかけか?」

「大体は。それに、先輩は何でもできて憧れだったから遊ぶのも楽しかったです」

「照れるとか言っといて夕日もたいがい照れること言ってないか?」


 そこまでべた褒めされるとむず痒い。


「本音だからいいんです。とにかく!私もずっと先輩と一緒に居たいから、このままじゃいけないなって思ってたんです。だから、改めて私からも言いますね。先輩のこと大好きですよ」


 再び俺にまっすぐ向き合った彼女は直球で思いを伝えてきたのだった。


「じゃあ、これからは恋人同士だな」

「夕日を背景に告白とか最高にロマンチックだと思いません?」

「そうだな。でも、恋人になったっていうのにお互い落ち着いてるよな」


 時々目線があってはクスクス笑いあってるのは少し気恥ずかしいけど。


「だって、もう恋をするを通り越しちゃってますから。ただ、嬉しいんですよ」


 恋を通り越してる、か。


「俺も言えてる。恋はいずれ愛に変わるとか言うけど、そういう奴かもな」


 たぶん俺が夕日に恋をしたのは本当に昔のことで。

 今は恋をしているというより一緒にいると安心できる存在だ。


「早くも倦怠期ですね」

「物は言いようだな。お互い衝突しないでいいから気が楽だとも言えないか?」

「別に一緒に居たいだけだから、いいですけどね」


 恋人になったばかりなのに、本当にお互い平然としてることで。


「このまま行ったら夕日と普通に結婚してそうな未来が見えて来たな」

「私もです。大学も先輩の志望校に合わせますからね」

「遠慮せんでも……と言いたいけど、俺も大学生活エンジョイしたいからな」

「私も同じくです。デートも色々行ってみたいですからね」


 こうして、仲の良い後輩と先輩だった俺たちは恋人になったのだった。

 だというのに全く色気の欠片もないのが問題で。

 日が沈むまでいつものおしゃべりに興じていたのだった。


(こういうのこそ俺たちらしいのかもしれないな)


 甘酸っぱい恋愛よりも落ち着いたお付き合い。

 そういうのが理想だったから。

 隣にいる大好きな後輩がそんな相手で良かった。


夕日(ゆうひ)に感謝かな」


 こんな雰囲気でもなければ告白していなかっただろう。

 沈んでいく夕日を見ていると。

 隣にいる夕日(ゆうひ)を見てると暖かい気持ちになるから。

 だから、素直な気持ちが出せたのだと思える。


「そのダジャレつまらないですよ」

「会心のできだったんだけどな」

「昔から先輩のギャグセンスは壊滅的ですから。自覚してくださいね?」


 にっこり笑って釘を刺す夕日。

 そんなどうでもいいオチがついたある日の夕方だった。


テーマはそのまま「夕日」でしょうか。


読み終えて暖かい気持ちになっていただけたら嬉しいなと思います。


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感想なんかもお待ちしていますね。

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[気になる点] さすがに「今度は一転して目を逸らして夕日を見ながらの言葉」は理解が辛かったです。何かうまいルビでも振れればいいのだけれど。 [一言] 口に出さなくても変わらなかったんじゃないかと思える…
[良い点] 幼馴染からの告白、の中で今までで一番穏当な成就。 ニヤつきもデレも照れ隠しもツンも無くて、却って意外でした。 [一言] 新作ありがとうございます。 コタツに入ったばかりの下半身のように…
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