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引きこもり

 僕の学生時代は、バブル景気の真っただ中で、大人たちは毎日浮かれ呆けてドンチャン騒ぎをしていました。


 もうすぐだ。もうすぐ僕もあの大人たちの仲間入りだ。名門高校を卒業して、一流大学に合格して、間もなく卒業。あとは一流企業に就職するばかり。以降は、終身雇用、年功序列の大手企業のレールに乗っかって、定年退職まで穏やかに生活をする。老後は悠々自適な年金暮らし。さあ、やって来い来い社会人生活。浮かれ、はしゃいで、楽しもう!


 ところが、です。


 僕が就職活動をしていた真っ只中に、あの憧れのバブル景気が、頼みの綱のバブル景気が、生きる希望のバブル景気が、この僕の目の前でパチンと音をたて、はじけて、飛んで、消えてしまいました。


 僕たちの世代は、未曾有の就職難に襲われました。ちなみに後の世で、僕たちの世代が「就職氷河期世代」とか「失われた世代」などと呼ばれるようになることは、この時はまだ知る由もありません。


 内定は取り消され、それに代わる一流企業の就職先も見つからず、募集が残っているのは、掃いて捨てるような二流三流の中小企業ばかり。


 笑え笑え。この最悪の状況こそ、得意の作り笑いでやり過ごすのだ。そう何度も作り笑いを試みましたが、駄目でした。笑えません。この時ばかりは、自分で自分を騙すことが出来ませんでした。


 僕は何もかもが馬鹿々々しくなり、一切の就職活動をやめました。


 僕は時代を恨んだ。


 次にこの社会を恨んだ。


 そしてそのやり場のない怒りの矛先が、自分の両親に向けられるまでに、多くの時間を要しませんでした。


 嘘をつきやがって。騙しやがって。裏切りやがって。僕は時々家庭内で大暴れをして、父や母を殴るようになりました。


 以降、僕は一度も社会に出て働くことなく、実家で堂々と引きこもり生活を続けることになります。


 今でもふと僕たち「失われた世代」の失われたものとは何だったのだろうかと考えることがあります。


 時代のせい。社会のせい。親のせい。「失われた」という被害者意識むき出しの言葉に、僕の人生の全てが凝縮されているようで、まったく胸糞が悪くなります。

 

 最近になって少しずつ分かってきました。本当は僕には時代や社会や親に失われたものなど何もないのです。


 ただ、自ら大切な何かを失ったような気はしています。一体それが何なのか、今の僕には、はっきりとは分かりません。


 それでも、この喪失感を人のせいにするのは何か違うなと思えるまでには、僕は大人になりました。


 気が付くと二十五年という時が過ぎ、僕は四十七歳になっていました。


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