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恋愛はいつだって重要緊急②

 おいおい、いつまで悩んでいるのだ。


 さあ、どうする? 主任とするのか? しないのか? 


 今世界がどのような状況に置かれているのか、お前は分かっているのか?


 おい童貞、それでもお前はするのか? 


 そこまでして、したいか? 


「イかせてやるぜ!」


 恋愛はいつだって重要緊急。脱衣場の扉の前で考えあぐねいていた僕は、突如としてそんな刹那的衝動に駆られ、服を脱ぎ捨て素っ裸になり、ベッドに腰掛けている主任に向かって走り出し、ガマガエルのようにピョコタンと跳躍して、そのまま主任の体に馬乗りになり、勢いに任せて主任の衣類を剥いでいきました。


 手こずるのではないか。ブラジャーのホック外しなどに散々手こずって、自分が初体験であることを見破られるのではないか。


 そんな不安をよそに、僕は熟練セクシー男優ばりにテキパキと主任の衣類を脱がせることが出来ました。我が指先を疑いました。いやはや、これは天性の才能ではなかろうか。


 シャツ、スカート、下着、すべてを剥ぎ取ると、ベッドには、全裸の主任が、人体の標本のように静かに横たわっています。


 こ、これが女体というものか。美しい。なんて美しいのだろう。


 胸。腕。足。くびれ。陰毛。質感。世界中のどこを探しても、これ以上美しい物体はきっと存在しない。


 あまりに現実離れした主任の体の美しさに、しばらく呆けたように見惚れていました。


 ふと我に返り、僕はこの状況下における二つの重大な異変に気が付きました。


 第一の異変とは、肝心の僕の下半身に、まるで異変が無いということです。


 おかしいな、気持ちはこんなに昂っているのに。体はまだ緊張しているのかな。


 それとも芸術作品のような主任の体からは、エロティシズムを感じにくいのかな。


 そして第二の異変とは、僕も主任も、全裸であるのに、口元にはずっとマスクを装着したままであるということです。


「失礼しました」


 全裸の女性の、マスクのみ脱がさず残す。女性にとって、ある意味これは辱しめなのではないかと判断し、先ずは非礼を詫びました。


 そして、気をつけのポーズで硬直し、ずっと天井を見つめている主任の不織布マスクに手を掛けたのです。

 

 途端に下半身が反応します。


 暴れ龍が、股座から昇天しようとしています。


 何となく予測はしていましたが、納得です。今確信しました。


 二十五年に及ぶ引きこもり生活を経て、このコロナ過に社会に出た僕にとっての性的興奮、


 それは、ブラジャーの向こう側ではなく、


 パンツの向こう側ではなく、


 このマスクの向こう側だったのです。


 隠蔽された口元は、剥き出しの性器以上に欲情をそそるのです。


 僕はこの女体の素顔が見たい。たまらく見たい。


 今すぐこの不織布マスクを野蛮に剥ぎ取ってしまいたい。



 その時です。



「……許して下さい」




 それは、秋の夜の名も知らぬ虫の囁きのようでした。







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