本当の本当の本当の本当
島袋主任とホテルへ向かうタクシーの中で、僕は考えていた。
どいつもこいつも嘘つきじゃないか。
四十七歳にして社会に出てよく分かりました。
建前。お世辞。媚び。同調。前提。交渉。厚意。社則。常識。配慮。秘密。慈悲。
僕の吹く嘘など、所詮は片言で話し始めた赤子のレベルです。
世間の皆様の足元にも及びません。
世間の皆様は、実に巧妙に嘘をつくのです。
この世界は嘘に溢れています。
この世界は嘘なしでは成立しません。
だからきっと、僕たちが絶対についてはならない嘘は「人は正直で在るべきだ」という嘘です。
言うに事欠いて、とても罪な嘘だと僕は思うのです。
「僕とセックスして下さい!」
僕は主任に確かにそう言いました。
島袋主任とセックスがしたい。それは僕の本当の気持ちです。
でも、僕は嘘つきだから、本当の本当は、いけ好かないあの女との性行為なんぞ、これっぽっちも望んではいないのです。
でも僕は嘘つきだから、本当の本当の本当は、主任の膣に自分の陰茎を挿入したり抜いたりしたいのです。
でも僕は嘘つきだから、本当の本当の本当の本当は……。
ああ、僕にはもう、何が本当で何が嘘だか分からない。
ひょっとしたら以前主任が言ったように、そもそも僕には、覆い隠すべき自分なんて存在しないのかもしれません。
取り留めのない思考が、何の変哲もない街並みの何の面白味もない風景と一緒に、タクシーの車窓を流れては消えて行きます。
十五分も走ると高速インターチェンジ付近の、ラブホテルが多くある界隈に到着しました。




