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他愛もない嘘のつもりでした

「やっぱりな」


 大当たり。


 こたつ机の上に開かれた大学ノートは、紛れもなく僕の嘘日記です。


 読まれた。嘘日記を読まれた。


 あの漫画を今朝また読みたくなった母が、誤って僕の嘘日記を読んでしまったのだ。


 僕のせいだ。僕があの漫画を嘘日記と間違えて、会社に持ち出したからだ。


 僕は半年間自分がつき続けた嘘が漏れなく記録された大学ノートを手にし、取り留めもなくパラパラとページを捲ります。


 ページのあちこちに点々と水滴が落ちて滲んだ跡。恐らく母の涙です。


 自分が産み育てた息子が、二十五年間ずっと引きこもりだった息子が、人生も半ばを過ぎてからやっと社会に出て働いてくれたと思いきや、世間でこのようなどうしようもない嘘をつき連ね、その嘘をこのようにご丁寧に記録しているという現実を知った時、母はどんな気持ちだったでしょう。


 きっと、たまらなく情けない、とても残念な気持ちで、一枚一枚ページを捲ったことでしょう。


 最後のページには、粘っこい液体をこぼして拭ったような跡がまだ半乾きで残っています。


 母の涎。または鼻水。母は、この最後のページを読みながら、この机に突っ伏して咽び泣いたのです。


 そしてこのページを開いたまま、首を吊って死んだのです。


 そこには、僕が昨晩ついたばかりの、つきたてホヤホヤの嘘が記されています。


 僕としては、取り立てて記録する程のこともない、他愛もない嘘のつもりでした。


 でも紛れもなくこの嘘が母を自死に向かわせたのです。



 十月十三日(火曜日)今日の嘘。


一、新型コロナウイルスは必ず終息する。マスクなんていらない生活が、いつかまた戻ってくる。


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