表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

34/49

お母様、僕は笑っちゃいました

 母は、僕の部屋で自殺をしている。


 分かるのです。息子ですから。


 ずっと一緒に生活をして来ましたから。


 あの女は、そういう女です。


 鬱とか、自殺とか、そういう周りを困らせるようなことを平気でする女なのです。


 たぶん、きっと、恐らくは、自死をするなら、あてつけがましく僕の部屋でしょう。


 そしてその方法は、オーソドックスな首吊り自殺でしょう。


 ふーん、なるほどね。そういう感じね。そういう展開に持って行く訳ね。


 胎の底から得も言われぬ苛立ちが湧き上がります。


 ああ、だるい。かったるい。はいはい、見つけて欲しいのね。確かめりゃいいんでござんしょ。


 僕は自室の扉を開け、ゴキブリホイホイに導かれる哀れなゴキブリのように、結構な純度の不幸が待つ空間へ、分かっていながらホイホイと入室したのでした。


「ほらね」


 的中。


 驚きとか、怒りとか、悲しみを通り越して、ちょっともう、何だか笑っちゃいました。


 予想通り母は僕の部屋で首を吊って死んでいたのです。


 部屋の中央にある内装デザインが目的で敢えて剥き出しの天井梁に、電気の延長コードを巻き付け、入口に立つ僕に背を向ける格好でぶらんと垂れ下がっています。


 スカートの中から滴り落ちる糞尿が、その下にある倒れた四尺の脚立を汚しています。


 屋外の物置から持ち出したこの脚立に乗って延長コードに首を掛けたのでしょう。


 部屋の奥にある僕のこたつ机の上に、一冊の大学ノートが開かれています。


 僕はそのノートに向かって、足枷に繋がった鉄球を引きずり歩き出しました。


 重い。足が重いなあ。嫌だなあ。見なきゃ駄目? 


 もういいじゃん。母は死んだ。それは動かしようのない事実なのだ。もうそれでいいじゃんね。駄目? どうしても確かめなきゃ駄目なの? 


 気持ちとは裏腹に、僕の体は天井から垂れ下がる物体の横を素通りして、一直線にそのノートの前に立ちました。


「やっぱりな」


 大当たり。


 こたつ机の上に開かれた大学ノートは、紛れもなく僕の嘘日記です。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言]  鞄から出てきたノートがマンガだったとき、『もしや』と思っていたのですが、まさかこうなるとは。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ