読まれた!
翌朝、昨日の主任の要らぬ計らいにより、今朝は不便なバスと徒歩で通勤しなければならず、いつもより早く起床して家を出ます。
家を出る間際に、晴夫さん、昨日読んだ漫画がまた読みたいわ、私あの漫画を読めば元気を取り戻せそうな気がするの、と母が玄関先で僕を呼び止めます。
出勤間際に面倒臭いババアだ。
イラっとした僕は、俺の部屋にあるから勝手に読め! と怒鳴りつけて家を出たのでした。
案の定下車するバス停を間違えてしまい、案の定とんでもなく歩かされ、案の定豪快に遅刻してタイムカードを押しました。
「あらあら、重役出勤ですか」
PC画面を睨みつけ、細く白い指先を小刻みに動かしながら主任が僕を注意します。
「申し訳ありません。おはようございます」
自宅からは自転車通勤の方がやっぱり効率が良いのだと痛感しつつ、息を切らせて鞄を机に放り投げます。
投げた勢いで鞄の中身がいくつか机に散乱ましたが、僕はそれに構わずトイレに急行しました。
二つも行き過ぎたバス停でバスを降り、遥か遠い会社に向かって歩き始めた時から打ち寄せていた便意が、今まさに最高潮だったのです。
その後、不幸中の幸いにして朝一番の綺麗なトイレで用を足した僕がオフィスに戻ると、この眼前に広がる世界は地獄に一変していました。
何と主任が僕の大学ノートを熱心に読んでいるではありませんか。
さっき、鞄を机に放り投げた際に、散乱した荷物の中からノートが机の下に落ちたような気はしたのです。
何たることだ。落ちたノートに気が付いた主任が、拾ったついでに中身を見てしまったようです。
長い脚を持て余すように組み、無言でノートを読みふけっています。
う、う、う、嘘日記を、読まれた!