嘘日記
この二十五年間、僕が「シェルター」と名付けて、親すら立ち入りを禁じ、外界からずっとこの身を守ってきた自室の中には、成人雑誌、少年漫画の単行本、スナック菓子の袋、丸めたティッシュ、ペットボトル、そして数百冊の大学ノートが床一面に散乱しています。
大学ノートには全て自作の漫画が描かれています。僕が二十五年間描き溜めた作品の数々です。
SF、アクション、ホラー、ギャグ、ジャンルは問わずアイデアを思い付いたら、そのつど新しい大学ノートに描き始めます。
物語全体の構成や後々のストーリー展開などは一切考えず描き進めるので、これまでまともに物語を描き切ったことは一度もありません。途中で描く気が失せるというか、まるで描けなくなるのです。断片だけの中途半端な物語が大量に放置されています。まるで僕の人生そのものです。
そもそも、誰かに見せて評価を得たいとか、どこかの新人賞に応募をして、いずれは漫画家になりたいとか、そういった夢や希望を抱いて描いているわけではないのです。であれば大学ノートに鉛筆で描くようなまねはしません。
ただもう純粋にお金のかからない暇つぶしを続けただけなのです。あと、たまに可愛い女の子のいやらしい絵を描いて、それを見ながら自慰行為をしています。
さて、いつものように部屋の一番奥にある薄汚い座椅子に座り、夏でも出しっぱなしのこたつ机の上に、いつものごとく新しい大学ノートを開きます。
でも、ここからが、いつもとは違うのです。
今日は漫画を描きません。
これから僕は帰宅途中に思い付いたアイデアを実施するのです。
僕はノートの一ページ目に鉛筆で大きく、
「嘘日記」
と記しました。
そして二ページ目にはこう記します。
五月十八日(月曜日) 今日の嘘。
一、僕は十年前に離婚をしている。離婚の原因は、元妻の浮気である。
一、現在、僕には付き合っている彼女がいる。