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母はコロナ鬱

 リビングの電気をつけると、腐った食材や何日も洗わずに放置された汚い食器が散乱したテーブルの上に、今晩の僕の冷めた食事が並べてあります。


 そして、その横の席には、室内でも不織布マスクをして、その上から更に透明のフェイスシールドを装着した僕の母が無言で座っています。


 今日も僕が帰宅するまで、闇の中でずっと置物のように座り続けていたのでしょう。


 母は、父が死んでから、そのショックですっかり様子が変になりました。


 そんな母を新型コロナウイルスの感染拡大による自粛生活が容赦なく襲い、母は現在、いわゆる重度のコロナ鬱に陥っているようです。


 僕が不在の日中に、最低限の家事や生理的欲求などを行う為、かろうじて行動している痕跡はありますが、夜はペットショップのイグアナのように同じ場所からほとんど動きません。


 話かけても返事はありませんし、時々「あうあう」と虚空に向かって何か呻いているのですが、声が小さく何を言っているのかさっぱり聞き取れません。


 せっかく息子が頑張って働き始めたというのに、自分だけのん気に鬱になりやがって、正直僕は母が腹立たしくて仕方がありません。


 数日前からリビングには蠅が集り始めています。


 蠅たちが幾度となく母のフェイスシールドに止まっては飛び回っています。


 僕はさっさと食事を済ませると、自室に籠りました。


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