嘘は罪
「せっかくですから、これからあなたに、人と人が良好な人間関係を構築するために、聞いておいて損はないことをいくつか質問します。あなたは只々正直に答えなさい」
帰りてえ。心の底から帰りてえ。
「えーっと、先ず、あなたは何歳ですか?」
「……昭和四十九年生まれ。四十七歳です」
「あら、私の父と同い年ね」
「お、お父様とタメっすか……。し、失礼ですが、主任はおいくつですか?」
「今年で二十五になります」
に、に、に、二十五おおお! 大人っぽい見た目に反し、思ったより若い! 二十五なんつったら、ついこの間まで精子じゃねーか! 卵子じゃねーか! この小娘! バカにしやがって! コケにしやがって! ウジ虫扱いしやがって!
うおっと、そんなことよりこのパターン、ヤバいよ絶対このパターン。
来る!
きっと来る来る、あの質問!
「次の質問。あなた、結婚はしていますか?」
ほら来たああああ! お、お、落ちけ。がんばれ自分。落ち着いて正直に答えよう。
ドクシンです。
機械的に喉チンコを震わせてその六文字を放てば全て終わる。独身は何も恥ずかしいことではない。
お願いだ自分、もう嘘はやめてくれ。どうか、どうか嘘をつかないで下さい。
嘘は罪。嘘は罪。嘘は罪。罪と罰。
「……僕、バツイチなのです」
あああああああああ、終わったああああ。この支店での勤務、終わったああああ。
「十年前に離婚しました。離婚の原因は元妻の浮気とかそんなところです。元妻のことを思い出すと辛いです。もうこれ以上は話したくありません」
いーや、今ならまだやり直せる。うっそどえーす! 花の独身四十七歳どえーす! なんつって自虐ジョークに変換して笑い飛ばしてしまえ。
「ふーん、それからはずっとお一人様?」
「いやあ、さすがに僕も男ですから、付き合っている彼女ぐらいはいますけどね。結婚はどうかな。もうこりごりかな」
馬鹿。やめろ。やめろってば。
「ちなみに僕の彼女は、ロシア人と日本人のハーフです」
どんだけロシア人とのハーフ好きなんだテメエはよ。
ああ、もう駄目だああああ。またそうやって自ら嘘のスパイラルを転げ落ちて行く訳ねええええ。
うわあ、最悪の状況だ。何とかして話の流れを変えよう。そうだ、主任にこちらから同じ質問を返してやろう。
「あの、失礼ですが、主任は、ご結婚は?」
「え、私? 私も今は一人です。私は結婚を二回経験しています」
「に、二回?」
「はい、二回です」
ば、ば、ば、バツニってこと?




