すんげー仕事の出来るお人なのね
「マスクは外さない!」
先方の前でマスクをは外しかけた僕を、主任が厳しい口調で注意します。
あれ、おかしいな、前の支店では、たとえコロナ禍とはいえ取引先のお客様の前では失礼だからマスクは外せ、と教えられたのだけれど。
いつ常識が変わったのかな。変わったら変わったって誰か先に教えてくれよ。
てか、つい最近社会人デビューした自分にはよく分からないけど、常識ってこんな短期間でコロコロ変わるものなのかね。まあ僕的には、それならそれで何の抵抗もなく従いますけどね。
主任と先方二人は、大量の資料と図面を凝視しながら、JIS規格だの、あいくる材だの、BL認定品だの、訳の分からない用語を飛び交わせながら詳細な打ち合わせを続けました。
そして、いよいよ主任が本題へと話しを押し進めます。
主任の商談は驚くべきものでした。
先ず先方に、弊社がメーカーから定価の何パーセントで商品を仕入れているのかを正直に公開してしまうのです。
更には弊社がその仕入値に何パーセントの利益を乗せて販売したいのかも正直に伝えます。
目の前で絶句する二人に、さらに主任が畳かけます。
「恐らく他の卸問屋も大方似たような仕入値に似たような利益を乗せていることでしょう。
仕入れ先のメーカーが、ある問屋にだけ法外な安価で販売をすれば、他の卸問屋が怒ってそのメーカーを取り扱ってくれなくなる訳ですから、各卸問屋への販売価格に雲泥の差はない筈です。
弊社は、着地点が見え見えの出来レースを御社と長々とするつもりはありません。白々しい攻防戦は時間の無駄であると考えます。
無駄を省くことで得られた時間で、御社の該当工事に係るより良い資料を作成する等のお手伝いを速やかにさせて頂きたいのです。
今ここに提示させていただいた金額が、御社の懐に飛び込んだネット価格です。どうぞ、ご検討下さい」
それでも結局先方の工事部長は、駄目押しの値引きを要望してきました。
それに対して主任は、他の小規模工事三物件の材料を全て弊社で納入させて頂くことを条件に、若干の値引きに応じました。
こうして主任は、大手給排水設備会社との大規模公共工事の契約を取り決めたのです。
ふえーー、島袋主任ってば、すんげー仕事のできるお人なのね。




