表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

12/49

いや、そこまで言うかね

「あなた、臭いわ。お風呂ちゃんと入りなさい」


 突然の容赦なき指摘に動揺してしまい、額から大量の油汗がぷくりぷくりと吹き出ます。


「ああ、臭い。たまらなく臭い」


 僕は、ポケットからクシャクシャのハンカチを取り出し、粘性の強い自分の汗をこってりと拭います。


「あと、太り過ぎ。せめて十キロは痩せなさい。みっともない」


 はいはい、容姿いじりね、主任も他人の容姿をいじって面白がりたい人なのね。どうぞ、どうぞ。こちとら慣れっこですから。


「それから、いつ竹槍を持った農民に身包み剥がされたのか知らないけれど、私には落ち武者の亡霊を部下にする器量はありません。明日までに丸坊主にしていらっしゃい。全く何なの、その往生際の悪い髪型は。禿げるなら禿げる、カツラ被るなら被る、ハッキリしなさいよ」


 いや、そこまで言うかね。さ、さ、さ、さっき出逢ったばかりだぞ。


 僕はもう頭が真っ白になってしまいました。


「ずる剥けの何が恥ずかしいのよ。恥ずかしいと思うその心が恥かしいって話よ」


 あ、お花畑。あ、蝶々。と僕が脳内でモンシロチョウを追いかけ始めたところで、車は目的地である大手給排水設備会社に到着しました。


「さあ、あなた、行くわよ」


 来客者用駐車場に車をバックで駐車すると、主任は運転席のドアを勢いよく閉め、


「見ていなさい、今日こそ契約してやるわ」


 すっかり罵詈雑言ドランカーと化し助手席でうなだれる僕を残し、瞬く間に建物の自動扉の向こうに消えて行きました。


 積み重なるダメージにとろけた脳味噌が、両耳からトロリと流れ出でているような気がして、僕は耳の穴に指を入れて何度も何度も入念に確かめるのでした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 本当のことは言われると耳に痛いよね…… けどこの上司さんの場合、悪意はないのが伝わってくる気がします!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ