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鉄仮面

 兎にも角にも、もう嘘はやめよう。


 嘘は罪。


 前の支店で身に染みただろう。


 嘘をついても、何もいいことなどありはしない。


 無能で、肥満の、落ち武者禿げ。そして、四十七歳独身、童貞、大学卒業後引きこもり。それが僕だ。それ以上でも以下でもない。もう取り繕うな。見栄を張るな。仕方がないだろう、これが現在進行形の、等身大の自分なのだ。


「穴太晴夫です。よろしくお願いします」


 異動先の支店での朝礼時に、数十名の社員の前で挨拶をしながら、僕は頭の中で何度も何度も自分を戒めました。


 今日からしばらくは彼女に付いて行動してもらうからね。僕よりも明らかに十歳以上は年の若い支店長に紹介され、前の支店を出る際に名前だけは聞き及んでいた次の上司が、僕の眼前に現れました。


「営業主任の、島袋珠しまぶくろたまです」


 まごうことなき、今朝の割り込み女です。


「では早速、外回りに行くから、付いて来て」


 もともと長身の上に高いヒールの靴を履いた島袋主任は、そう言い残すや否や、重そうなバックを抱えて、ツカツカとオフィスを出て行ってしまいました。年齢不詳。軽くパーマのかかった短髪で、スタイルのよい後ろ姿は、さながらファッションショーに出てくる外国人のスーパーモデルのようでした。


「けけけ、可哀そうだねえ、君も鉄仮面の餌食か」


 僕が慌てて荷物をまとめ主任を追う準備をしていると、黒いウレタンマスクの中年社員が僕のところへ近づいて来て、耳元でそう言いました。


 さあ、新しい支店で初仕事。島袋主任と初外回り。


 社用車にて取引先へ移動します。


「あなた、行きがけに、他の社員に私のことで何か言われた?」


 前方の信号機が赤に変わると、社名の入った軽自動車をゆっくりと停止させ、信号待ちの間に運転席の主任は不織布マスクの上から鼻の頭をこりこりと掻き、七分袖のブラウスの袖ボタンを外して左肘をボリボリと掻き、右耳のピアスをプニプニと触りながら助手席の僕に尋ねました。


「……いいえ、特に何も」


「鉄仮面とか何とか言われなかった?」


「……」


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