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父親と日曜

家に戻り、『Overlook』と5,6時間向き合う。


「よし、今日はこれで終わりっと」


そう独り言を言い、僕は2階のベランダへと向かう。扉を開けると今までこもっていた空気が一気に外へと逃げていった。


ぼぉーっと夜の星空を眺めつつ、昨日、今日という2日間を少し振り返ってみることにした。


まずは少しアブノーマルな形ではあるが彼女ができた。そして、ギャルとも会話をした。今まで女の子と無縁すぎる人生を送ってきた僕からすれば、この2日間は春峰史における歴史的な一歩だと言えるだろう。毎日の朝ごはん→学校→ゲーム→夜ごはん→寝るという決まりに決まったルーティーンが崩れてゆくかもしれない。これからどんな世界線が待っているのだろうと少しワクワクしながら僕は夜ごはんを食べに自分の部屋が出た。


リビングの机に向かうと冷えかけたナポリタンが置いてあった。レンジで温め直し、ナポリタンを食べていると、「ガチャッ」という音と共に父親が駆け込んできた。


「おかえり」

「ただいま。今日も仕事疲れたよ」

「おつかれ、夜ごはん置いてあるよ」

「おーそうか、じゃあ一緒に食べるか」


父親は僕の正面に座り、夜ごはんを食べ始めた。少し沈黙の時間が流れた後、父親が僕に質問をしてきた。


「最近ゲームの調子はどうなんだ?」

「うーん、まあまあってとこ」

「そうか、来月選考会あるんだろ、負けてはらんねーな」

「まあね、この1年でかなり強くなったと思うし自信はある」

「そうか、でもまあ油断はするなよ」


世の中の父親や母親の多くは子供にゲームをやらせすぎることに反対するイメージであるが、僕の父親はそういう考え方をしていない、というか、元々ゲームを極めろ、と僕に『Overlook』を勧めてきたのは父親なのだ。最近はゲーム市場も広がってはきているし、その考え方はあながち間違いではないのかもしれない。


「ごちそうさまでしたー」


僕は階段を登り、再びゲーム特訓に入った。


疲れを感じ、そろそろ寝るかと時計を見ると既に1時を回っていた。何気なく寝る前のラインのチェックをすると、花さんから連絡が来ていた。受診時間は15時37分、既に10時間近くが経っている。(ヤバイ、完全に花さんのことをほったらかしにしてしまっていた)と後悔の念が襲ってくるが、どうしようもないなと思い花さんのラインを読んだ。


『貝くん、これすごく綺麗じゃないですか?思わず見惚れてしまって・・・。なので急に連絡しちゃいました( ´∀`)』


文字の下には綺麗な花の写真が載せられていた。僕自体は特段花に興味があるわけではないが、とても綺麗なことだけは分かったので返信をした。


「うん!すごい綺麗!鮮やかな黄色が凄い輝いてるね!ちなみに名前は何ていうの?」


とりあえずこれで大丈夫かなと思い送信ボタンを押した。と同時に強烈な眠気に襲われ、僕はそのまま眠りについた。


========================================


9月19日午前8時30分、日曜日になった。毎週日曜日は潤が家に遊びにくるデー&ゲーム猛特訓デーである。この日曜日だけ、潤は僕のことを師匠と呼んでくる。


「おーい、師匠ー、鍵開けてー」

「今向かう、ちょっと待ってて」


隣にも聞こえるんじゃないかというレベルの大声で潤は僕を呼ぶ。これも毎週日曜日の小イベントの一つである。ドアを開けると潤はコンビニのレジ袋を持った手をあげて、「よっ」と言ってきた。


そのまま玄関を登り、2人で部屋へ向かう。ここまでくると後はひたすらゲームの特訓をするだけである。



午前のゲーム練習が終了し、2人で昼ごはんを食べる。基本的には家の近くにあるラーメン屋さんで食事をするが、今回は潤がコンビニで弁当を買ってきてくれていたので、部屋で食べることになった。


「いやー、XとYボタンの使い方が大分上手くなったわー」

「うん、大分上手くなってるね」

「これも師匠のおかげっすわ」

「いやいや、そんなことないよ」


師匠である僕を持ち上げてくれる潤。普段は結構マウントを取ってくるような言動をするが、日曜日だけは少し居心地がいい。


「ところで、お前の彼女について具体的に教えろよ」

「え、あぁ、そのことね。でもいいじゃん何でもさ」

「ダメに決まってるだろ。女の影一つ無いようにみんなに見せといて、裏でコソコソやりやがって。ここで全部白状しろって」

「いや、裏でコソコソなんかやってないってば」

「嘘をつくなよ。ほら教えろよ、どうやってあの子と出会ったんだ?それでどうやって告ったんだ?それか告白されたのか?」


前言撤回。今回の日曜日は全然居心地が良くない。弁当に入っていた唐揚げを頬張りながら僕は顔をしかめた。いや、本当のことを言うのも別に悪くはない。花さんとはあの交差点で初めて会い、そこで付き合うことになったと伝えてもいいのだが、潤はチャラ男ではあるものの恋愛には真面目なタイプであるのは知っていたので、こんな経緯を話したらものすごく怒られるのではないかという不安がある。


少し悩んだ結果、嘘をついてもバレるだろうと思い、本当のことを話すことにした。


「じゃあ本当のことを話すから聞いてよ」

「おっ、やっと話す気になったかー、よし、話せよ」

「実はさ、潤があの子を見た時があの子との初めての出会いで、それでその瞬間に告白されて・・・って感じ」

「は?」


まさかの回答に潤は唖然としている。まあそれもそうだろう。


「まあそういうことだよ」

「いやいや、そういうことだ、じゃなくてさ。なんかないの?その後の展開でもいいし、告白される前になんか言われた、とかさ?

「いや、だから何もないんだよ。最初の言葉が告白だったんだって。その後はごはんを一緒に食べてライン交換してって感じかな」


潤は呆れ顔で僕に視線を向けた。


「はぁ。あのなー、相手のこともよくわからずに受け入れるのは流石にどうかと思うぞ」

「うん、そうだよね、ごめん」

「いやまあ別に謝ることではねぇーけどさ。それでどうなんだ?ごはん一緒に食べてみての印象は?」

「うーん、今のうちの印象はめちゃめちゃ優しくておとなしい人、だね。今まで男の人と関わりを持った経験も少ないって言ってたから割と気は合うんじゃないかって思ってるんだけど」

「へぇ、そういうタイプなのか。自分から告白するあたりかなり積極的な子だと想像してたが」

「うん、全然ガツガツ来るような子ではないよ」

「ならいいんじゃね?よかったな、すぐ浮気するようなタイプじゃなさそうで」

「うん、まあね」

「おう、ほんとだよまったく。てか聖とかいう転校生ギャルとかすぐ浮気しそうだよな」


冗談のつもりで潤はサトミさんの話を出してきたのだろうが、今のイジリに関しては少し否定したくなった。プールでの一件の後、僕はまだ一度もサトミさんと会話をしてはいないが、別にそこまで悪い人なのではないかと感じていたからである。


「えー、そうか?そんな人には見えないけどな?」

「おいおいまじで言ってんのかよ、あの見た目だぜ?お前見る目ないんじゃねーの?」

「いやいや、そんなこと言ってるけどじゃあ聖さんと話したことあるの?」

「いや、ないけどさ。だってお前だってないだろ?」

「いや、あるよ」

「は?」


まさかの回答に潤は唖然としている。本日2回目の「は?」である。


「おいおい、それも詳しく聞かせろって」

「プール掃除の時にプールの場所教えてあげたってだけ」

「おいまじかよ、お前話しかけたのかよ」

「相当怖かったけどね、でも話してみて僕はかなりいい人だなって思ったよ」

「え、マジ?すぐ暴力とか振るいそうだけど」


そう言われると、プールで水をかけてきた男子生徒を追いかけていた映像が思い浮かんだが、サトミさんの印象のためにもそこはあえて触れないことにした。


「そんなことはないと思うけどな、僕には殴ったりしてこなかったし」

「そうなのか、じゃあ俺の見る目がなかったんだな」


そういって潤は少し落ち込んだような表情をした。もしかしたら勝手に人の性格を判断したことを反省しているのかもしれない。


「まあそんなものだって、ほら、弁当も食べ終わったし練習再開しよ」

「おう、そうだな」


潤はすぐにやる気を取り戻し、肩をブンブンと振り始めた。こうして潤とのゲーム練習が再開されたのだった。










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