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女子とご飯

定食屋に入ると、顔なじみの店長さんと目があった。


「おおー貝くんじゃないか、最近全然来てなかったから元気か心配だったよ」

「あ、そうですね、すみません。ご無沙汰してます」

「謝る必要はないよ、元気そうで何よりだ。いつの間にか女の子を連れてくるほどにまで成長しているとは思わなかったけどね」

「あ、それはですね、えーっと・・・」


店長さんはニヤニヤしながら僕と花さんの方を見てきている。こういう時の返事の仕方に慣れていない僕は焦りが隠せない。


「そ、そう、そうなんですよー、実は、そ、そうなんですよねーー」

「まあ最初は誰でも緊張するものだよ、はいこっちのテーブルに座って」


店長さんに誘導されてテーブルに二人で座った。先ほどのベンチとは異なり、お互いの顔がよく見える。(うわーーーー、僕の顔超ブスだし花さん嫌に思わないかなーーー、ちょっと居ても立っても居られないよーーー)と心の中で思い、


「あ、お水取ってくるね」


と席を立った。ウォーターサーバーの方へと向かいながら気持ちを落ち着かせる。少し冷静さを取り戻した後花さんのいるテーブルへと戻った。


「お水ありがとうございます」

「いやいや全然。ところでメニュー見た?」

「あ、はい。私、このサバ定食にしようと思います」

「了解、じゃあ注文しよっか」


そういって僕は店長さんを呼んだ。


「はい、注文は?」

「サバ定食といつものやつで」

「ほい、了解」


店長さんはそそくさと厨房へと向かっていく。すると花さんが僕に質問してきた。


「貝くんはこのお店によく来るんですか?」

「うん、そうだね。特に中学校の頃は友達とゲームして遊んだ後ほぼ毎日このお店に来てたんだよ」

「へぇー、そうなんですね。私普段あまり外食とかしないので・・・」

「そうだったんだ。じゃあほとんど毎日家で食べてるの?」

「はい、そうです。なのでこうやって外食出来てとっても幸せです」


そういって花さんは笑った。天使の笑顔に僕の緊張が一気に溶かされてゆく。


「そっかそっか、なら良かった。でも今日は突然だったからもう家でご飯が用意されてたんじゃない?」

「あ、そ、それは・・・」


花さんは少し話そうかどうか悩んでいるような素ぶりをみせている。


「あ、ごめんごめん。言いにくいことだったら全然言わなくてもいいよ」

「あ、いえ、大丈夫です。実は、お母さんに貝くんとご飯を食べてくるって朝には言ってあったんです」

「へぇーそうなのかぁー、ってえぇっ!?朝に言ってあったの?」


頭の中に疑問符が増殖してゆく。もしご飯を食べにいくだけなのであれば、告白なんてする必要はあるのだろうか。いや、ということは花さんは僕に告白すれば必ずOKをもらえて、ご飯を一緒に食べにいくことまで想定済みだったのか。もし本当にそうであれば何たる小悪魔だ、花さんは!


「あ、はい。ただ・・・、本当は二人でご飯を食べに行きたいと伝えるつもりが、緊張しすぎてしまって言う言葉を間違えてしまいました」

「あ、ってことは本当は告白をするつもりはなかったってこと?」

「そ、え、あ、はい。実は・・・・・・そ、そうなんです。でもそのー、少し話して貝くんが物凄いいい人なんだなって思ったのでむしろ告白して良かったですし、なので、全然後悔してないというかー、そのー・・・」

「花さん気を遣わなくても大丈夫だよ。まだ花さんは僕のことを全て分かっているわけではないだろうし、僕も花さんの知らない部分が多くあるから、これからお互いを知っていこうよ」

「はい!」


先ほどの『花さんとてつもない小悪魔理論』は完全な被害妄想だったみたいだ。とはいえ、本当は告白なんてするつもりはなかったのかぁ。であれば花さんが本当に告白して良かったと思えるように僕は男を磨いていかねば、と心の中で覚悟を決める。そうしていると、店長さんが両手におぼんを持ってこちらへと向かってきた。


「はい、お待ちどうさま。サバ定食と唐揚げ定食ね」


僕と花さんの前に食欲をそそる匂いが漂っている。


「よし、じゃあ食べよっか。いただきます」

「あ、いただきます」


僕はサラダを頬張りこむ。甘酸っぱい青じそドレッシングが心にしみる。花さんの方を見ると小さく切ったサバを口へと運んでいた。


「ん、美味しいです!」


花さんは幸せを噛み締めながら口をモグモグさせている。


「気に入ったみたいで良かったよ」

「はい!また来たいです」


花さんにとって外食は慣れていないことなので、こうも喜んでくれると僕が外食の良さを伝えられたような気がして少し嬉しくなった。


「うん、何度でも行こうよ」

「はい、次は私も唐揚げ定食が食べたいです」

「そうだね。あ、唐揚げ1個食べる?」

「え、貰っちゃってもいいんですか?」

「うん、全然いいよ」


僕はそう言って花さんに唐揚げが載っている皿を渡した。花さんは小さめの唐揚げを1つとり、皿を僕に戻した。本当は(ア〜〜〜〜ン)とかもやりたいけど、モテ男レベル0の俺にはまだ100年早いだろう。


「花さんって意外に食べるんだね」

「あ、そうですか?家だともうちょっと料理が出てきますよ」

「え、そうなの!?これでも結構多いような・・・」

「そ、そうなんですか?自分の家以外の人がどのくらい食べるのか全然分からなくって・・・」


この定食はメイン料理の他にご飯(どんぶりくらいの量)、味噌汁、サラダ、茶碗蒸し、おかず2品、デザートのヨーグルトで構成されており、成人男性でもお腹いっぱいになるくらいのかなりの量があるが、この量を毎日家で食べているのだろうか。やはり花さんの家のこととなると少し不思議に思うところが増えるがまあ今回は気にしないでおこう。



少し時間が経って、僕と花さんは定食を全て食べ終え、一息ついていた。僕はかなりお腹いっぱいであるが、花さんはまだまだお腹いっぱいという様子ではない。花さんはかなり小柄な体型であるが、女性大食いのタレントさんもあまり太っていない人が多いし、本当に人は見た目で判断してはいけないものだと思い知らされる。


「いやー美味しかったね」

「はい、とっても美味しかったです」

「うん、じゃあ時間も時間だしそろそろ行こっか」

「あ、はい」


僕と花さんはゆっくりと席を立ち上がり、帰りの支度をし始めた。花さんはおそらく学校の教材が入っているであろうバックを背中に背負った。


「店長さん、お会計お願いします」

「ほいよ、今日は貝くんが大人になったご褒美にちょっとまけてあげるよ。二人で1500円だ」

「え、そ、そんな、いいんですか?ありがとうございます。それではお言葉に甘えて」


僕は1000円札を2枚トレーに乗せた。お釣りの500円玉を貰う時、店長さんは僕に耳打ちをした。


「女には優しくするんだぞ」

「わかってますよ!」


店長さんは(なら良し!)という様子で大きくうなづいた。花さんの方を振り返ると、心配そうな顔でこちらを見ている。


「あ、あのー、私の分は・・・」

「あ、全然大丈夫だよ。店長さんまけてくれたし」

「いや、でもー・・・」

「心配しないでいいよ花さん、今はそこまでお金にも困ってないしさ」

「そ、そう、そうですか。本当にありがとうございます」

「うん、じゃあ行こっか」


そして僕と花さんは定食屋さんを出て、駅の方向へ歩いてゆく。


「そういえば花さんはここから電車で帰るの?」

「はい、そうです」

「そっか、俺は実は自転車で来てて・・・。でも駅に置いてあるからそこまで一緒に行こっか」

「あ、はい!わかりました」


こうして、僕と花さんは楽しく会話をしながら駅まで向かった。未だに女の子、しかも二次元ではない自分の彼女と呼べる存在と楽しく会話して歩いているこの光景が信じられなかったが、まあ人生は何があるか分からないということだろう。


「よし、駅着いたね」

「はい」

「今日は本当にありがとう。最初はまさかの出会いだったけど、二人で公園で話したりご飯を食べられただけでも凄く楽しかったよ」

「いえいえ、こちらこそありがとうございます。本当に楽しかったですし、こんな私を受け入れてくれてありがとうございます」

「いや、花さんには今日迷惑かけちゃった部分もあったし・・・」


ふと頭に泥水が花さんにかかる瞬間がよぎった。うん、確かに僕はまだまだ未熟な人間だ。でもご飯に誘おうと勇気を出してくれた花さんにこれだけは今日伝えておかなければ。


「でも、こんな未熟な僕ではあるけど。まだまだ花さんのことを知りたいし、凄く自己中かもしれないけど迷惑かけた分だけ花さんを幸せにしたい。だから・・・」


ゴクリと唾を飲む音とともに、息を大きく吸い、投げやり気味に声を出した。


「僕と付き合ってください!!!」



暗闇と言ってもいいような暗さの中、静寂に包まれた。花さんからの返事はない。もしかして、これは、失敗、なの、だ、ろうか?恐る恐る顔を上げ花さんの方を見ると・・・。花さんは大号泣していた。そして、


「あ、ぐすん、あの、ぐす、こちらこそ、ぐすん、よろしくお願いします」



こうして9月13日月曜日20時、場所は同じく東府駅前の交差点。(正式な?)カップルが1組誕生したのであった。

















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