女子と会話
公園に到着し、二人でベンチに座った。
「そういえば、花さん。ご飯はまだ食べてない?」
「あ、はい。まだ食べてないです」
「そっか、なら近くにおいしい定食屋さんあるからちょっと経ったらそこで二人で食べる?」
「はい!そうしたいです」
花さんは僕の言うことを全部聞いて肯定してくれている。本当にこれで大丈夫なのだろうか、花さんに気を遣わせてしまっていないだろうかと逆に不安になってしまう。
「お母さんとかに伝えなくても大丈夫?」
「あ、そ、そうですね、連絡しておきます」
そういって花さんはスマホを取り出す。必死に文字を打っている姿に思わず見とれてしまう。しばらくして、
「連絡しておきました」
「そっかよかった。あ、そういえばまだラインを交換してないね」
「あ、そうでしたね。これQRコードです」
花さんはそう言うと僕の前にスマホを差し出す。うわー、これが憧れの女子のラインのQRコードかぁ〜。なんか輝いて見えるぞ。そんな心の興奮を抑えつつ友達登録を終えた。
「よしできた。スマホありがとう」
花さんにスマホを返し、自分のスマホの画面に目をやると花さんのラインのプロフィールが映し出されている。大量の綺麗なコスモスがまるで畑のように広がっている。
「このコスモス綺麗だね」
「あ、ほんとですか。ありがとうございます」
「うん、すごく綺麗。ちなみにどこで撮ったの?」
「これは、、家ですね」
「えっっーー!家!?」
おいおい嘘だろ!!と思わず心の中で叫んだ。そのコスモス畑はどう考えても家の庭の広さではないからだ。もしや、家がとてつもなく大きいのか?それとも金が水のように湧き出てくるお金持ちの娘さんだったりするのか?かなり気にはなるが出会ってすぐ家族や家の話を聞くのもデリカシーがない気がする。ということで話をそらすことにした。
「あ、へ、へー、そっかぁ、家なのかー。他にも何か咲いてたりするの?」
「あ、えーと。バラ、キキョウ、リンドウ、ゼフィランサス、ポーチュラカと・・・・・、後は・・・そうですねー、他にも色々あるんですけど・・・」
うぎゃーーーーー。話をそらすどころか話を広げてしまった気がする。家の庭は写真の何倍もの広さだということか。一体どういうことだ?そうなってくるともはや植物園レベルだぞ。
「そ、そ、そっか。すごい色々あるんだねー」
「そうなんです。全部綺麗でいつも見入ってしまいます」
ダウンを取られ困惑している僕とは対照的に花さんは少し元気になって会話をしてくれている。もしかしたら花が好きなのだろうか。まあそれなら結果オーライだと思っていると、午後6時を知らせる鐘がゴーーーン、ゴーーーンと鳴り響いた。
「もう6時かぁ。そろそろ定食屋さん行こっか」
「はい。わかりました」
こうして二人でベンチから立ち上がり、定食屋さんがある方向へと歩いていった。
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風が気持ち良く吹く中、二人で道路を歩いてゆく。まだまだ謎が多い花さんだけれど、なんとなくでも会話は成立しているし、少し手応えを感じている。これなら今すぐにもモテ男の人生を歩めるのではないか、と思っていると後ろから車が猛スピードで僕たちを追い抜かしていった。
「バッッッシャーーン」
午前中の雨によって出来た水溜りが飛び散り、僕たちに水滴の嵐が襲いかかる。車沿いを歩いていたのは・・・・・・花さんであった。
「キャッ」
花さんの小さな悲鳴と共に泥水が花さんの服にかかってしまう。
「あ、ごめん、花さん。大丈夫??」
「あ、あ、はい。そう、で、すね、、。大丈夫、、で、す」
うわーーーーーーーーー。悔やんでも悔やみきれない失態をおかしてしまった。男と女がデートをする時は必ず男が車沿いを歩かなければならない、というのはデートの鉄則中の鉄則ではないか。全く気づかなかった自分が情けない。これで何がモテ男だよ、と自分で自分を責める。しょんぼりしていると、僕を見た花さんが口を開いた。
「あ、あのー。全然心配しなくていいですよ。」
「い、いやー。本当にごめん、服、汚くなっちゃったよね」
「全然大丈夫です。よくあることですよ」
花さんに励ましの言葉を受けて少し気持ちを立て直した。そうだよな、まだ俺はデートを1度もしたことないような未熟者だ。花さんが許してくれているんだし、次からは絶対に気をつけよう。あ、後自分がモテ男と思いこむのはやめよう。
「そうなのかな・・・。でも花さんの気分が落ち込んでないならとりあえずよかったよ」
「はい、春峰くんもちょっと元気になったようで何よりです」
「あ、うん。ありがとう。あと、春峰って呼びにくいし、貝でいいよ」
「えっと、でも私多分春峰くんより年下だと思うので・・・」
「あ、そうなのかな。ちなみに花さんは今何年生?」
「高校2年生です」
「あれ、僕も同じ高2だよ」
「あ、あ、そうなんですね。じゃ、じゃあ、これからは貝くんって呼びます」
「うん、よろしくね」
花さんは少し照れているのか顔を赤らめている。僕はそんな花さんの顔の可愛さに照れて顔を赤らめている。二人で照れあっていると前の方に目的地が見えてきた。
「あそこに見えるのが定食屋さんだよ」
「あ、そうなんですね。楽しみです!」
こうして僕と花さんは少しトラブルはありながらもなんとか定食屋の暖簾をくぐることが出来たのであった。