7話「反省文と修道院」ざまぁ回
オイデンブルク公爵家の当主はお祖父様だ、お父様はまだ爵位を譲り受けていないし、跡継ぎとすら認められていない。
「息子夫妻は屋敷から追い出す! 市井で平民として暮らすがいい! 民の暮らしを体験を通して学べ!」
「そんな……!」
「お義父様お慈悲を……!」
両親がお祖父様の前に跪き、両手を合わせ懇願した。
「お祖父様、貴族育ちの二人に市井の暮らしは無理ですわ」
二人を市井に放てば数日で飢え死にするでしょう、いくら酷い両親でも餓死させるわけには行きません。
「そうだな本来なら市井の最下層地域に送り、民の痛みや苦しみを味わわせたいところだが、悪しき者に利用されビアンカの足をひっぱられては面倒だ」
お祖父様の言葉に両親が希望に瞳を輝かせる、だがその瞳はすぐ絶望に染まることになる。
「では、廃嫡はなしで……?」
「今まで通り公爵家で暮らせるのですね?」
「貴様らの廃嫡は決定事項だ! 市井に小さな小屋を与える、生涯そこから出ることは許さない! 一歩でも外に出たときは強制労働所に送る! 監視が目を光らせている、逃げられると思うな!」
「「そんな……!」」
「お前たちには思いやりの心が欠けている、小屋で今までの行いを反省しろ! 反省文を毎日三十枚書いて私の元に送れ!」
「さ……三十枚も……!」
「無茶ですわ……!」
「別に書きたくないなら書かなくても構わない、怠ければその分食事の質を下げていくだけだ。最終的に硬いパンと水だけにする、それでも構わないなら、いくらでもさぼる事だな」
「「っ……!」」
両親が声にならない悲鳴を上げその場に崩れ落ちた。
「それからミア!」
お祖父様に鋭い眼差しを向けられ、ミアの体がビクリと震える。
「お前は国で一番厳しい修道院に送る! その腐った心根を叩き直してもらえ!」
「あんまりだわお祖父様! 私の事が可愛くないの? お姉様ばかりえこひいきして! ずるいわ!! 酷いわ! あんまりだわ!!」
妹がお得意の「ずるい、酷い、あんまりだ」を連呼する。
「己の過ちにも気づけず、反省も出来ない者は私の孫ではない! また民を思いやる心のない者に人の上に立つ資格はない! 修道院で質素な生活を送り心を入れ替えろ!」
「質素な生活なんて嫌よ! 豪華なドレスや華美なアクセサリーのない生活なんて耐えられないわ! 私は公爵家に残って今まで通り贅沢な暮らしをするの!」
妹が暴れ出した。
「そうだわ! お姉様は年上なんだから私と代わってよ! お姉様が修道院に行って質素に暮らせばいいのよ! 可愛い私はみんなに愛されて、蝶よ花よとちやほやされて、公爵家を継いで王子様と結婚して楽しく暮らすわ!」
妹はお祖父様に叱られても、両親の処分を聞いても全く反省していなかった。
「息子夫婦とミアを拘束しろ! 外から鍵のかかる部屋に閉じ込めておけ!」
「「「承知いたしました!!」」」
お祖父様が合図を送ると、お祖父様に直接仕える使用人が何人か前に出てきた。
あっという間に両親と妹は拘束され、会場の外に連れ出された。
両親と妹は最後まで抵抗し、妹は私を睨み恨み言を吐いていました。
「皆、騒がせて済まなかった。今言った通り息子は廃嫡、息子の嫁と孫娘のミアを公爵家から除籍処分とした。公爵家は孫娘のビアンカを私の養子にし継がせることにした、今日ここにビアンカがオイデンブルク公爵家の正式な跡取りであることを宣言する!」
お祖父様が大きな声で宣言した。
会場内は一瞬どよめきに包まれたが、数十秒後どよめきは拍手喝采へと変わった。
「オイデンブルク公爵令嬢なら安心ですね!」
「ビアンカ様は学園の入学試験で首席だったそうですわね」
「頭が良く美しく、その上民への思いやりに溢れている」
大勢の人に褒められるのは、なんとなく照れくさい。
「オイデンブルク公爵令嬢にはまだ婚約者がいらっしゃいませんでしたね?」
「わたしくしの息子はいかがかしら? ビアンカ様と同じ学園に通っておりますの」
「わしの孫にはまだ婚約者がおらんのじゃが」
「今度我が家のお茶会にご招待いたします」
「俺と芝居を見に行きませんか?」
僕と婚約してくれ、家の息子と、いやいや私の孫と……という人たちが押し寄せてきた。
「静かに、残念だがビアンカには既に決まった相手がおる、諦めてくれ!」
お祖父様に一喝され、集まっていた貴族は蜘蛛の子を散らすように去っていった。
お祖父様に睨まれても、怒鳴られてもひるまなかった妹はある意味すごい。
「お祖父様助かりましたわ、嘘も方便ですわね」
「何を言っている、ビアンカに決まった相手がいるのは本当だろう?」
お祖父様がひげをなでながらニヤリと笑う。
「えっ?」
「ビアンカは聡明だが色事に鈍感なのが玉に瑕だな、お前たちそうして並んでいると一対の人形のようだ」
お祖父様が私とルード様を交互に見てウィンクをした。
ルード様の方を見るとルード様も私を見ていた、お互いの視線が交差し、顔に熱が集まる。
「取り敢えず婚約だな、結婚はビアンカが学園を卒業してからとする、二人とも不服はないな?」
お祖父様に尋ねられても、私たちは何も言えなかった。
お祖父様が「二人とも初いな、沈黙は了承と受け取る」と言って笑った。
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