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5話「私が望んだ誕生日プレゼント」


「ごちゃごちゃ言ってないでさっさとプレゼントを見せてよ! 私気になって昨日は眠れなかったのよ!


指輪にネックレスにイヤリングに髪飾りにブローチ、今年はどんなデザインの物を頂いたのかしら? ダサいデザインの物でも仕方ないから貰ってあげる! 出来れば公爵家の御用達の宝石店で買った物が欲しいわ! 爵位の低い貧乏な貴族は呼ばなかったわよね? デザインの悪さは許せても安物のアクセサリーは許せないのよ! 売っても大したお金にならないんですもの!」


妹の話を聞いた招待客が眉間にしわを寄せた。


目の前でプレゼントの値踏みをされたら誰だって気分を害す。


しかも姉宛に贈ったプレゼントを妹が盗んで、気に入らないものは売るとまで言っているのだから、招待客が気分を悪くして当然だ。


「ビアンカ、やはりミアは駄目だ」


お祖父様が鋭い目つきで妹を睨んでいる。


「お祖父様、プレゼントの箱を開けたミアの反応を見るまでお待ち下さい」


私はお祖父様を宥め、妹にプレゼントの保管場所を教えた。


「ミア、頂いたプレゼントはあそこの箱に入っているわ」


「やっと白状したわね! どうせ私の物になるのだからさっさと教えなさいよ!」


会場の端に置いてあるシーツのかかった箱を指差すと、妹は箱をめがけて一目散に走っていった。


「ミアの淑女教育はどうなっている? 貴族の立ち居振る舞いではないな」


ドスドスと音を立てて走る妹を見て、お祖父様が眉を釣り上げ両親を見た。


お祖父様に睨まれた両親は、青い顔で震えている。


「ミアの立ち居振る舞いが完璧でなくても仕方ありません。長女のビアンカにはお父様が自ら選んだ優秀な家庭教師を付けましたが、ミアにはビアンカほど優秀な家庭教師を付けられませんでしたから」


「そうですわ、予算のせいですわ」


公爵家の当主になるべく育てられた長女の私と、いずれお嫁に行く次女の妹に充てられた予算は当然違う、それは事実だ。


「どんな家庭教師を雇ってもすぐに首にしておいて、どの口が言う! お前達とミアが家庭教師を雇う金を着服し、ミアと三人で芝居小屋に行って遊んでいたことを、私が知らないとでも思っているのか!」


両親は妹に厳しくあたる家庭教師を「ミアが可哀相」と言って次々に首にした。


妹もそれが分かっていて家庭教師の座る椅子に画鋲(がびょう)を仕込んだり、紅茶に下剤を入れたり、家庭教師の先生に上から物を言って怒らせたりした。


両親はそれでもミアを叱らず、全て家庭教師が悪いことにして解雇した。


とうとう悪評が立ち、妹の家庭教師を引き受ける者はいなくなった。


両親は妹の家庭教師を探すのを諦め、家庭教師を雇うためにお祖父様が用立てたお金を着服し、芝居小屋に行ったり、高級レストランに行ったり、ドレスやアクセサリーを買ったりして遊んでいた。


両親の顔は青を通り越して紫になっていた。


「きゃー! なんなのよこれは!」


その時、プレゼントの入った箱を開けた妹が悲鳴を上げた。


私はお祖父様とルード様と共に、妹の元に向かう。遅れて両親がついてきた。


妹は箱の中身を見て小刻みに震えていた。


「皆様が私に下さった誕生日プレゼントですわ」


「これのどこが誕生日のプレゼントなのよ! カボチャに大根にじゃがいもに人参に玉ねぎに……全部野菜じゃない!」


妹の前に置かれた子供の背丈ほどの箱には、ぎっしりと野菜が詰まっていた。


「私が皆様に手紙を書いて誕生日の贈り物は野菜にして下さいとお願いしたのです、素敵なプレゼントでしょう?」


「嘘よ! 玉ねぎや人参が誕生日プレゼントのはずがないわ! お姉様酷いわ! 私にプレゼントを譲りたくないからプレゼントを隠したのね! 本物のプレゼントはどこにあるの? 早く出しなさいよ!」


妹が怒りに満ちた顔で怒鳴る。


「隠してなんかいないわ、それが私の望んだプレゼントよ」


「しらばっくれるのなら仕方ないわ! こんなもの! こうしてやるわ!」


妹が箱に入っていたカボチャや大根を床に投げつけた。


「こんなもので騙されるものですか!」妹が鬼の形相で床に叩きつけた野菜をヒールで踏みつける。


会場の貴族からざわめきが起こる。


「お止めなさい! なんてことするの! その野菜はご招待した方々の領地で採れたものです! 民が汗水たらして作った作物です! あなたがぞんざいに扱っていい品物ではありません! その野菜を踏みにじる行為は、それを育てた民と野菜をプレゼントして下さったお客様のご厚意を踏みにじる事に他なりません!」


妹の肩を掴むが「うるさい! いい子ぶりっ子!」と言われ、振り払われてしまう。


「キャッ……!」


体勢を崩した私を支えて下さったのは、ルード様でした。


「大丈夫かいビアンカ?」


「大丈夫ですわルード様、助けて下さりありがとうございます」


ルード様にお礼を伝え、妹に向き直る。


「プレゼントは!? ダイヤやサファイアやルビーやエメラルドやアメジストや真珠の付いたアクセサリーはどこにあるの?? もしかしてこの箱の奥に隠してあるのかしら?」


妹はまだプレゼントに執着しているようです。


「成人を祝う誕生日のプレゼントが野菜だけってことはないわよね?」


妹は箱の中に入っていた野菜を手当たりしだいに掴み、外に投げ捨てた。


「ミアが今言った通り、その箱に入っているものは私が頂いたプレゼントの一部にすぎません」 


私の言葉を聞いた妹の深い緑色の瞳がぎらりと光る、獲物を狙うときの鷹のように鋭く貪欲な眼差しだった。


「やっぱりね、他にもプレゼントがあると思っていたわ! 性悪女! 隠してないでさっさと出しなさいよ!」


恥知らずな妹の言動に、招待客が眉をひそめる。


両親だけは「なぜ妹に意地悪をするんだ、野菜を踏みつけたぐらいなんだ!」「そのくらいでミアを怒らないで! ミアに本当のプレゼントを見せて上げなさい!」と言って私を責めた。


両親も妹も、お祖父様と私が説教をしても何も変わらなかった。


でももしかしたら、彼らの心の奥底にも民を想いやる気持ちがあるかも……と期待した私が愚かでした。


「ここにはありません」


「どこよ! どこに隠したの! 独り占めは許さないわよ!」


「さっさと出さないか! ミアを悲しませるな!」


「あなたは昔から妹への思いやり、いえ人としての思いやりが欠けているのよ!」


妹が私に掴みかかろうとするのを、ルード様が私の前に立ち庇ってくれた。


騒ぎ立てる両親は、お祖父様が抑えている。


「私が頂いた誕生日プレゼントのほとんどは広場にあります」


「広場?」


妹が顔をしかめる。


「お客様から沢山のお野菜や小麦粉を頂きました。皆様の領地で取れた新鮮な物です。


屋敷の人間ではとても食べ切れないので、広場で炊き出しをし、市井で暮らす人々を招待し、召し上がって頂きました。私もパーティーが終わったら炊き出しの手伝いに行くつもりです」


貧民街に住む者や孤児院で暮らす少年少女を優先的に招待した。


病気の家族を抱えている貧しい家庭には、お料理を瓶に詰めて届けた。


頂いたプレゼントの殆どは民の胃の中です、これなら妹がどんなに欲しがっても、駄々をこねても、奪うことは出来ません。


こんなに素敵なプレゼントは他にないわ。


「なっ……プレゼントが全部野菜と小麦粉……? 嘘でしょ……??」


「市井で暮らす者を招待して食べさせただと……?」


「そんな……なんて勿体ない、勿体ないどころか……完全に無駄だわ」


妹と両親が口を開けてポカーンとしていた。



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