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十三番目に輝く星(2005)  作者: 瑞城弥生
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十四 新しい友達

 最初に目に入ってきたのは、蛍光管のオレンジ色の光だった。真っ白い天井に雨漏りの染みがあって、それが何だか人の顔に見えたので思わず笑った。


(どうしたんだっけ)


 意識がもうろうとしている。

 体を起こそうとした時おなかに痛みを感じた。手で触れると包帯の感触とともに、ちくりとした痛みが襲ってきた。


(そうだ刺されたんだった)


 アヤメの冷たい目と赤く染まった刀の先を思い出した。

 生きていた。それだけでなんだかほっとした。


「気がついた?」


 ナオの目の前に顔を出したのは、ミズキだった。


「何であなたがここに」


 ナオは警戒して、辺りを見回した。

 窓際にいるナオの反対側、つまり通路側のベッドに誰かが眠っている。


「レイラ?」


 点滴を受けながら横たわって居るのはレイラだった。


「彼女の傷は少し深かったたの。でも、命に別状はないみたいよ」


 まるで看護でもしているかのように、ミズキは備え付けの丸椅子に座った。


「さっきも聞いたけど、何であなたがここにいるの。病院に黒い服はなんて縁起悪いし」


 少し考え込んでから指を鳴らすと、ミズキの衣装がピンクのナース服に変わった。


「これならいい?」

「まあ、それなら……」


 いつもの服より似合っていた。これで愛想がよければ完璧だ。

 感心してミズキを見ていたナオは、大事なことを思い出した。


「ねえ、あんたが居るって事は……」

「大丈夫よ、ちょと脅しておいただけだから」

「ちょっと?」

「みんな隣りの病室にいるわ」


 ミズキはあっさりとそう言った。


「イクミにも手伝ってもらったし」


 どうやら本社の作戦はミズキによって未然に防がれたようだ。特別工作課の社員もここで寝ているのであれば安心だ。


「そうだこれ」


 ミズキは桜のネックレスを取りだすとナオの首にかけた。

 アヤメが弾き返した弾に切られたはずのそれは、丁寧に修復されていた。


「アヤメが謝っていた」

「ありがとう」


 カーテンを開けて外を見ると、よく晴れた月の無い夜だった。

 オレンジ色に輝く星がひときわ目立っている。


「アルデバランでしょ」

「うん」

「十三番目に輝く星よね」

「何よそれ」

「太陽を除いた恒星の中で、十三番目に明るくみえるのよ、あれ」

「十三か、いい数字よね」


 ナオはそう言って笑った。


「わたし決めたの、母親がどうして、何を考えて行動したのか調べてみる。出来る限りいろいろな事を。もちろん貴方の事もね。それから考えるわ。自分が今何をすべきなのかをね」

「あんたやっぱり、あの人の娘よね」

「そう?」

「うん、そっくり」


 ナオは不思議だった。

 どうしてミズキとこんなことを話しているんだろう。親の仇のはずなのに……。でも、ナオから復讐の感情はなくなっていた。それはアヤメの刀に絶たれたのだ。そう思う事にした。

 そして母の事を調べる為にミズキが必要な存在だった。


「でも、私の両親を殺したのはあなただし、その事実は変えられない。だからわたしは、あなたを永遠に許さない」

「それで」


 動揺する様子も無く、それでもまじめな顔でミズキはナオを見た。


「わたしに付き合ってもらうわよ。ずっと」

「ずっと?」


 罪を償わせようなどという気はなかった。ただ母親の事を調べるためには、彼女のそばに居るのが一番だとは思っていた。


「いいわ。私も貴方の事をもう少し知りたいと思っていたのよ」


 ミズキはいままで見た事の無いやさしい笑顔をナオに返した。

 差し出した手をミズキは握り返してくれた。


「契約成立ね」


 ミズキは小さく頷くと姿を消した。

 とても温かい、母親のような笑顔のままで。


 外はまた雪が降り始めた。

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