【SSコン:明後日】イカロスの翼
明後日さ、と彼は言った。
「明後日さ、告ろうと思ってんだよね、あいつに」
「お、ついに……??」
「うん。……だめだったら慰めてもらいにくるわ」
「いーよ、生徒会長サマが甘えられるのはあたしに対してだけだもんね〜」
「なんか腹立つな。まぁそれはそうだけど」
あはは、と笑いを吐き出す。でもこの笑いが、いつものあたしが浮かべている笑いと同じものなのかどうか、あたしにはいまいち自信がなかった。
じゃ、と言って床から立ち上がったのは、あたしの幼なじみだ。切れ長の瞳と色素の薄い肌、薄い唇でクールビューティーと称される、あたしの自慢の幼なじみ。
嫌な思いをしたことも、ある。女の嫉妬が怖いことを、おかげであたしは幼少期から知った。でも。
『澪を泣かすやつは、俺がやっつけてやるから!!』
だから心配すんな、と笑った笑顔に魅せられたあたしは、太陽に翼を焼かれたイカロスみたいだ。
俯きながら恋情を吐き出す彼の言葉を初めて耳にした時から、あたしがいつか海に落ちることはもう、決まりきっていたのだろう。
「澪〜」
彼の恋が叶うことを、あたしは知っている。知っていて、けれど決定的には告げなかった。
ずるい、ひどい、そんなのは自分が一番知っている。けれどこれは、あたしの最後の悪あがきだった。
「今日も航哉くんがかっこいいよ〜〜!」
あたしの親友も同じく、彼に恋をしている。彼女の髪は、柔らかくなびくボブカット。いつだったか彼が好きだとこぼしていたそれを、彼女に教えたのはあたしだ。
親友の笑顔を見るたび心が痛くなる。彼の言った明後日、今日から見たら明日は彼女の誕生日だ。
二人が両想いなことを知りながら今も、あたしはまだ、彼が好きで。
彼が好きだと言った陽だまりのような笑顔。暖かく優しい人柄は誰からも好かれるものだろう。……私とは違うと思ってしまうくらいには、あたしは彼女が羨ましくて、だけど全部好きだった。
幸せになってほしい気持ちは、本当に嘘じゃない。笑っていてほしいと思う。
二人ともあたしにとってはとても大切な人で、幸せになったのを見届けたいと思う相手だ。
親友が彼に恋をする気持ちが分かるのと同じように、彼が彼女を好きになった気持ちもあたしは、痛いほど分かってしまったから。だから壊すなんてできないまま、あたしは明後日の方を向いて祈る。
彼らの恋が、美しく実りますように。
彼らがずっと、幸せでありますように。
私の太陽が、早くこの翼を焼いてくれます、ように。