なに買うんだったっけ?
お使いを頼まれたまほちゃん。ママにもらったお使いメモを見ながら、スーパーに買い物に行きます。
「えーっと、鶏肉300グラム、ジャガイモ一パック、玉ねぎは、三個入りがあったらそれを買って……。それと、カレーのルーだわ!」
まほちゃんはメモをじっくり見ていきます。
「それに、あ、ママったら、にんじんもカレーに入れる気だわ。にんじんきらいっていってるのに……。それに、あれ、どうしてマッシュルームも?」
まほちゃんのまん丸くて大きな目が、ぱちくりしました。おともだちの福子ちゃんの家では、マッシュルームをカレーに入れると聞いたことがあります。でも、まほちゃんの家ではマッシュルーム入りのカレーは食べたことがありません。
「ママ、どうしたのかなぁ? あ、もしかして、新しいメニューの開発かなぁ?」
まほちゃんのママは、いろんな料理にチャレンジするのが好きなのでした。たまに失敗することもあるのですが、それでもまほちゃんはママの料理が大好きでした。
「マッシュルームカレーに挑戦するのかなぁ? あれ、でも……」
まほちゃんは、メモの続きを読んで、またしても目を大きくまたたかせました。
「ブロッコリー……? えっ、どうして?」
さすがのまほちゃんも、カレーにブロッコリーなんて入っているのは見たことがありません。なによりまほちゃんは、ブロッコリーが大の苦手なのでした。
「せっかくのカレーなのに、ブロッコリーなんていやだよぉ……」
泣きそうな顔になるまほちゃんに、うしろから声がかけられました。
「あっ、まほちゃん! お買い物?」
「あっ、福子ちゃん! うん。福子ちゃんは?」
うしろには、まほちゃんのおともだちの福子ちゃんがいたのです。
「あたしはこれから、みんなと公園で遊ぶんだ! まほちゃんも行かない?」
「あ、どうしようかなぁ……」
あんまり遅くなると、ママが心配するかもしれません。でも、少しぐらいならママも気にしないでしょう。なにより福子ちゃんたちは、いつも面白い遊びを思いつくのです。まほちゃんは買い物のメモと福子ちゃんを見くらべて、それからこっくりうなずきました。
「わかった、いっしょに遊ぼう!」
まほちゃんの言葉に、福子ちゃんもにっこり笑いました。
「面白かったなぁ、なわとびしながらだるまさんがころんだするなんて、あんなのよく思いつくよ、福子ちゃん。でも、ちょっと遊びすぎちゃったかも。早く帰らないと……」
お家へ帰ろうとするまほちゃんは、ハッとしてから、スカートのポケットを探しました。
「あれ、ない、ない……。ママのお買い物メモ、どこ行っちゃったの?」
どうやら遊んでいる間になくしてしまったのでしょうか。まほちゃんの顔が青くなります。
「どうしよう、いったん帰って、ママにもう一度聞こうかしら。でも、お買い物せず帰ったら、遊んでたこと怒られちゃう……」
いつもは優しいママですが、起こるととっても怖いことを思い出し、まほちゃんはぶるぶるとふるえました。
「こうなったら、思い出さなくっちゃ。確か今日はカレーを作るんだったわ。カレーは、じゃがいも、玉ねぎ、それにわたしはきらいだけど、にんじんもいれるはず。それに、わたしは豚肉のカレーが一番好きだから、きっと豚肉が入っているはずだわ。……でも、なんか変な材料も書いてあったんだよね。それを見て、ママがまた新しいメニューにチャレンジするんだって思ったもん」
まほちゃんはメモに書かれていた材料を、なんとかして思い出そうとします。そのうちにまほちゃんは、あっと小さく声をあげたのです。
「そうだ、マッシュルームだわ! 福子ちゃんのおうちでごちそうになった、マッシュルーム入りのカレーを、ママは作ろうと思ってたんだわ! それじゃあさっそく買って帰ろう!」
まほちゃんはホッとした様子で、スーパーへ向かいました。
「玉ねぎ、じゃがいも、うーん……でも、買わないと怒られちゃうから……にんじん。それに、マッシュルームも。野菜はこれで終わりだよ……あっ!」
買い物かごに野菜を入れていくうちに、まほちゃんはある野菜に目がとまりました。
「ブロッコリー……?」
まほちゃんの顔がうぅっとゆがみました。
「そういえば、ママのメモ、ブロッコリーって書いてあった。ママ、マッシュルーム入りのカレーじゃなくて、ブロッコリーも入ったカレーを作ろうと思ってたのかな? でも、ブロッコリーなんて、どう考えても合わないよ。マッシュルームに、ブロッコリー……。だってこれって、カレーじゃないもん。カレーじゃなくてどう考えても、シチュー……あっ!」
またしてもまほちゃんは声をあげました。そばでトマトを買おうとしていたおばさんが、思わずまほちゃんをふりかえりました。
「そうだ、これってシチューの材料だわ。……でも待って、それならわたし、豚肉だと思ってたけど、そうじゃなくて鶏肉だわ! シチューといえば鶏肉だもん!」
納得したように何度もうなずき、まほちゃんの顔がほころびました。
「それじゃあさっそく買っていこう!」
買い物かごをぎゅっと握って、まほちゃんはブロッコリーをかごに入れました。
「ただいまぁ!」
「お帰りなさい。まほちゃん、遅かったわね」
「ごめんね、ママ。途中で福子ちゃんたちと会って、遊んじゃったの」
えへへと笑うまほを、ママは仕方がないわねぇといった表情で見ていました。まほはママに買い物ぶくろを渡します。
「ママ、シチューの材料買ってきたよ」
「えっ、シチュー? あら、わたしカレーの材料をメモしてなかったかしら?」
ママが首をかしげました。まほちゃんはえへへと笑って首をふります。
「ママったら、あれ、シチューの材料でしょ? ブロッコリーにマッシュルームって。だからわたし、カレーのルーじゃなくて、シチューのルーを買ってきたんだ。でも、にんじんもブロッコリーも入れないでほしいわ」
「ブロッコリーに、マッシュルーム? あ、そうか。ごめんねまほちゃん。ママ、チキンカレーを作ろうと思ってたんだけど、そっか、シチューの材料を書いちゃってたのね」
ママの言葉に、まほちゃんは目をぱちくりさせました。
「えっ、じゃあ、カレーのルーが間違ってたんじゃなくて……」
「そうよ、マッシュルームとブロッコリーが間違っていたのよ。ごめんなさいね。……でも、せっかくまほちゃんが買ってきてくれたんだし、今日はシチューにしましょうか」
「やったぁ!」
「でも、にんじんもブロッコリーも入れるからね」
ママにいわれて、まほちゃんはうぅっと顔をしかめました。