9、家族だけの秘密(レオグル/エーデル視点)
ふと、俺と視線が合ったような錯覚を覚えた。ただそう思いたいだけなのか分からないが、お嬢様と居る男性は楽し気に話している。
どこかで見た事のある雰囲気様だが、今まで屋敷に訪れたという記憶がない。ざっと思い返してもその筈なのに、どうにも初めてではない。けど、その正体が掴めずにいるのは……お嬢様と仲良くしているからだろうか。
「……っ」
瞬時に、見なかった事にしようとした。
だが、見てしまった以上は……あとをつけた以上は、どうにも引っ込みがきかない。そう考えている内に2人を見失っていた。
焦った俺は辺りを探し回った。2人はすぐに見つかった。それは、お嬢様の容姿と合っているからだ。明るめの水色のワンピースに、見覚えのあるカバンをしていたから。
(……俺が、最近渡したカバンだ)
お嬢様は俺と出会った日を誕生日にしようと、言ったのだ。
元々、1年過ぎて年齢を重ねるという感覚。その中で、お嬢様の家族は記念日を大事にしている。
それから俺もお嬢様の誕生日を知る様になり、お互いに贈り物を渡すようになった。
今、使っているカバンは緑色の生地に花の刺繍がされたもの。屋敷の中で使った所は見た事もないが、何でこの時に……。
ギュっと拳を握っていた。
俺はお嬢様と自由に過ごした日はない。それこそ、物語であるようなデートもない。執事として仕事をしている内、傍に居るのが当たり前だと思っていたからだ。
こんな思いをするなら、お嬢様の言う様に用事もないのに出かければ良かった。
気持ちが沈むのに、足は自然と2人の後をつけていく。気配を読まれないようにする辺り、お嬢様に知られたくない気持ちが強まる。
でも、それを俺は止められない。
2人の関係が気になってしょうがない。本当に、ただの知り合いなのか……言い表せない感情が、俺の中で渦巻きイラつかせていった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「うん。似合いそうで良いかも」
装飾品を売っているお店で思わず小声になる。私と一緒に居る相手――レファールは笑いを押し殺している。これは練習なのに、今からこれで平気なのかな。
「ごめんごめん。……レオグルは覚えてるかな」
「多分、覚えてないかも。でもいいの。私にとっては大事だから」
「だとしたら、本人に確認しないで行くのはマズくない?」
「嫉妬させようって意見をだしたでしょ?」
「そうだった」
えへへ、と困った様子で笑うレファール。
レナリ様とレファールと私と混ざって、レオグルの気持ちをどう知ろうかと意見を出し合っていた。普段、どう接しているのかと聞かれ思い返す。
挨拶の度に好きだということ、私から抱き着いてアピールした。思いをストレートに告げる事から始めた。
服従の魔法で、レオグルにかけられていた呪いは外れると教えてくれたのはレファールだ。
彼が調べてくれた中で、レオグルの過去を知ってしまった。奴隷にさせる過程で逃げられないようにと施した呪い。どうやって調べたのか聞いたら、父様の日記に記してあったんだって。
『大丈夫だよ。姉さんが日記を書いていたとしても、僕は見ないから』
私の不安そうな表情を見て、勘違いしたレファールが言う。ほっとしたのが少し微妙な所だが。
やがて、相手の気持ちが分からないなら引き出そうという結論になった。そしてその方法が、レオグル以外の男性と居ること……みたい。
『お兄様では目立ちますし。他に任せられる人はいる?』
レナリ様、さらっとご自分のお兄様を出してくるの怖いです。なんだか、ラーバル様はノリノリでやりそうで怖い……。
そうなると、私は自然とレファールを見る。彼も同じ意見だったのか頷いた。
静かに納得し合っているとレナリ様は気になって聞いてくる。が、これは流石に言えない。なのでどうにか成功させるので、と次の機会に言ってすぐに屋敷に戻った。ついでとばかりに、母様にすれば構わないと許可を得た。
と、言うか周りから固めるんだね。そう思っていると、当然の如く『姉さんの為だし!!!』と凄い気合が入っている。
『彼、感情を出さないのが上手いし……。アレスみたいに一直線ならまだいいんだけど』
母様からもレオグルはそう見えるだ。その場でレファールは変化した。
小さかった身長は、175センチと高身長になり少年顔から青年になった。母様がすぐに若い時に着ていた父様の服を着れば……満足気だ。
なんでも父様の若い時にそっくりであり、偉い偉いと頭を撫でられている。ふにゃと顔を緩めているから想像できないが。
これを知っているのは私達家族だけだし、レオグルや使用人達には知らない。面識がないから、勘違いしてくれる……はず。
『でも、やりすぎると危ないから気を付けてね? 私も、やり過ぎてお父さんに怒られたし』
母様の血を濃く受けたレファールは身体の成長を変化させられる。母様も自在に使っていたが、父様が見合い相手でも変わらずにやっていたら見付かったんだって。
『それで、どんな年齢でも愛を囁いてくれたから……コロッと。今もたまにやるとすぐに怒るのよ。誘拐されたら困るって』
流石に小さ過ぎたらダメだから、レファールと同じ15歳で王都を出歩いていると聞く。……それもダメだけどね、と言いたいが父様がすぐに見つけるから嬉しいという。
『ん。姉さんとレオグルを深める為に頑張るよ。だって家族なんだし』
この時の家族という言い方に、私は疑問を持たなかった。レファールの中で、レオグルに対する評価が変わったのだろうか。
「どうしたの?」
ぼうーっとしていたら、レファールが小声で聞いてくる。
もう1度、自分の手に持っている物を確認する。レオグルに合いそうだし、もう少し経てば記念日にぶつかる。
嬉しそうに買う私に、レファールもまた嬉しそうにしている。これをレオグルに知られる訳にはいかないし、今日は予行練習だ。そう思っていたのに、既にこの時から見られていたなんて……私は気付かなかった。




