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8、嫉妬の感情(レオグル視点)


 お嬢様がレナリ王女に誘われることが多くなった。何か相談しているらしいが、俺には内容を伝えない様子。気になるが我慢するしかない。


 ここ最近の自分の行動を思い返す。

 旦那様から頼まれる掃除が多くなってきた。驚いたのはそこにレファール様も加わったこと。彼はアレス様と同じく俺の事が気に入らない、筈だ。


 そうでないと、お嬢様の部屋に毎日通わない。

 彼の本性を垣間見た出来事がある。お嬢様にお見合いの話が持ち上がった時、様々な家柄の優秀な当主が紹介されていく中で寒気を覚えた。

 

 お嬢様は奥様と同じ金髪で、旦那様の瞳の色を受け継いでいる。アレス様は、旦那様の容姿に似ておりレファール様は奥様の容姿に似ている。元々、その手の話に慣れているだろうにお嬢様は一切それに関わらず俺だけを見ていた。

 

 レファール様が見ていたのは、お嬢様に対して熱心に見つめていた当主達。

 その翌日、お見合いの取り消しが次々とあがってきた。思わず彼を見ていた。俺の視線を受けてニコリと笑う。



『姉さんに色目を使ったんだよ。僕が許せると思ったの? あと、殆ど王族の意見に微妙な反応の所ばっかりだったから……兄さんとで脅した』



 穏やかな口調の中に、見え隠れするドス黒い感情。表情を表に出さない俺でさえ、思わず息を飲んだ。しかし、彼はすぐにその雰囲気を消して気付いたように言った。



『平気平気、レオグルは特別だもん』



 その後、お嬢様がレファール様の事を誘う。外交で屋敷に帰れないアレス様からは、お土産として訪ねた国のお菓子がよく送られてくる。広げられた中身を見てすぐに目を輝かせた。



『さっすが兄さん!!! 種類がいっぱいあると迷うなぁ~』

『だよね。半分こにする?』

『うん!!! レオグルも良いよね』



 ギクリと肩を震わした。今のをお嬢様に告げるなと、言われている気がしてならない。そっとレファール様を見れば、冷めた目で「分かるよね」と言わんばかりの迫力だ。仕方ないと静かにため息を吐き、3人で囲んだが……味が全然分からなかった。

 

 そういった出来事もあって、レファール様の怒りに触れるとマズいのだ。基準は全てお嬢様だ。だから、お嬢様の口から言えば彼は止まる。だが、それを言わせてくれる程の隙を彼は絶対に与えない。

 気に入られている要素が見付からないでいる俺に、笑顔で言い切った。



『僕は姉さんの味方。兄さんの考え方には賛成してたけど、ね。レオグルの仕事も手伝って、早く姉さんに安心させてよ?』



 そこには優しさしかない。本心から告げられていると分かり、レファール様と魔物を狩る日々が始まった。吸血鬼を狙う魔物は、その血肉で自身の力を上げるという厄介な点があるが性質も同じだ。俺と同じく太陽の元に出られない。



「あ、レオグル。今日はお休みね」

「は……?」



 いつもの朝、いつもの風景。それは、今日もあると思っていた。



「おや、すみ……ですか」

「うん。レオグルも1人で居たい時ってあるでしょ?」



 そこで気にしないで欲しい、と言えば変わったのだろうか。

 休ませようとしているお嬢様の言葉に、俺の意見で変えてしまうのはいけないことだろうか……。



「わかり、ました。それでは、お休みをいただきます」

「今日は知り合いと会うから大丈夫だよ。夕方には戻るから安心してね?」

「……はい」


 

 顔に出てしまった、だろうか。ギュッと手を握るお嬢様が心配そうに顔を見上げている。

 ぐっ、と言いたいことを飲み込んだ。


 行かないで下さい。俺と、過ごしてくれないか……?


 そう言えればいいが、ワガママで困らせる訳にはいかない。どうにか自分の気持ちに区切りをつけ、髪を整えるがどうにも上手くいかない。



「……」

「レオグル?」



 いつの間に手が止まっていたのか、お嬢様が見上げて名前を呼ぶ。

 はっとした俺は慌てて何でもないように言い、綺麗に整ったと言えば嬉しそうしている。緑系統のドレスも好きだが青い系統のものも好きな様子。

 理由を聞いてみると、必ずと言って良い程にはぐらかされた。とても恥ずかしそうにしていたので、その話題には触れないでお嬢様を見送った。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 

 なんだが、今日は色々と考えてしまう。

 

 珍しくレファール様もいないからか、調子が狂う。いつも着ていた執事服ではなく、ラフな格好をしている自分自身に違和感を覚えた位に。執事服が当たり前だという定着があるのも、お嬢様と多くの時間を過ごしたからだ。

 旦那様に拾われて、お嬢様を紹介されて……。


 執事と接していたのに、いつの間にか心惹かれていた。

 お嬢様にはいずれ、決められた相手との婚約がくる。太陽の元でも活動できる吸血鬼は希少だ。少しでもその血を欲するのには、後世へと残す為にはいずれお嬢様は誰かのものになるのだ。


 望んではダメだと何度も思った。

 だからお嬢様の言う「好き」という言葉も、事務的に返してきた。今も、同じように返しているのは実感がなかったから。何かの夢ではないかって思う位に、俺がお嬢様に返せるものはない。



「……?」



 久々の休みに王都へと行くが、お菓子の流行りやドレス、装飾品を見てしまう。つい、お嬢様に似合うだろうかと考えてしまうからだ。

 そこで見覚えのある髪の色を見た。……間違える筈もない。今朝まで整えていた色で、ギリギリまで話していたお嬢様のもの。


 ドクン、と警報のような音が俺の体を巡る。それ以上はダメだと、必死で訴えて来るが我慢が出来なくて後をつける。


 そこには金色の髪に、赤い瞳の男性がいた。刺繍された服は旦那さまやアレス様の着ているものと似ている。即座に爵位持ちの相手なのだと分かり嫌な事が過った。お嬢様の知り合いだから、つい同性だと思っていたが……まさかの男性だと分かりショックを受ける。


 ふと、その男性と目があった様な気がした。

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