5、恋バナ?
「ごめんなさい。お兄様があんなに笑うだなんて思わなくて……」
「い、いえ……。あとで兄さんには罰を与えますから」
そうだ、こうなったのも全部兄さんが悪い。戻った時にどう仕返しをしようかと考えていると、その様子を見てレナリ様が笑う。すぐに気を取り直して、これからどこに行くのかと聞くと城の中庭に案内してくれるのだという。
あの後、兄さんは王子と仕事をするのだと言い私はなんの為にやってきたのかと睨んだ。父様が迎えに来るまでにはまだ時間はあるし、このまま屋敷にでも戻ろうかと思った。
そうしたらレナリ様から意外なお誘いを頂いた。もっと話したいからと暫く共に過ごしたいのだという。
え、と思って密かに兄さんを見る。
いいの? いきなり、王女様と?
戸惑う私に、ラーバル王子は時間があればと言ってくれる。時間は全然あるし、屋敷に着いて急いでやる事なんて無い。素直にその申し出を受け、私はこうしてレナリ様と共に行動をしているという訳だ。
「兄様のお仕事を手伝っているので、こうして誰かと話すのもなかなか叶わなかったんです。ご迷惑でしたよね、すみません」
「い、いえっ!!! わ、私で良いのなら……」
謝らさせる訳にはいかない。慌てて大丈夫だと言い、ほっとした様子でフワリと笑う。それが凄く綺麗で、思わずほぅと溜め息を漏らしてしまった。
「こちらが中庭になります。私のお気に入りでもあるんです」
「うわあっ……!!!」
開け場所に出て私は食い入るように見た。
広がるのは青、赤、ピンク、緑色の薔薇園だ。その植物はどれも魔力があるからだろうか、それぞれの色になって淡く光っている。凄く綺麗で屋敷で育てている花達と比べると、当然だが綺麗な上に自分の魔力は回復している不思議な感覚だ。
これは、一体……。
「ここは、国を支える結界の装置としても役割を担っているんです。薔薇に灯っている魔力がその証拠です」
レナリ様はそう説明し、青い薔薇がある方へと歩き出す。そうだ、彼女達の魔力でこの国の結界は保たれている。それを持続させるのには、何処かでそれらを貯める場所が必要だ。
つまりこの薔薇はその役割を担っている、ということだろう。
「大丈夫ですよ。警備が厳しいのもその理由ですし、窮屈かも知れませんが我慢して下さい」
そっと教えてくれる。チラッと薔薇を見るフリをしてみてみると、確かに他の場所にも護衛としての執事や使用人が多い。ここはその倍ほどいるのが分かる。吸血鬼は夜に活動をするからか、生まれて間もない子供でも魔法を扱う事に長けている。
弟のレファールが良い例だ。
彼は私や兄さんよりも緻密なコントロールを簡単に行い、始祖が扱う血の魔法を簡単に扱える。その気になれば、あの子は相手の血を利用して拘束したりするのも簡単だ。
ホント、あの子が凄すぎる……。
どの吸血鬼でも血の魔法は扱える。でも、そのコントロールが確実に出来るかと言えば微妙な所だ。同時作業に加えて、狙いを定める狙撃、気配探知を同時にし確実に放つ。範囲が広ければ広いほど、その集中力は計り知れない。だからこそ、皆が扱えるのに使おうとはしない。
1人を相手にするのなら良いが、複数にはその分の集中が必要だ。レファールはその点、簡単に行うから凄いとしか言えない。自慢の弟だし人懐っこくていい子だ。
「大丈夫です。お気遣いありがとうございます」
「あの、もう少しお話よろしいですか?」
「はい。私でよければ」
そう言って私達は中庭にある噴水で腰を下ろした。
噴水の縁に座り、そこからたくさんの話をした。お互いの家族の事もだし、屋敷での生活や城でのことも。思わずそこで好きな人が居るのを言うと――前のめりになって聞いて来た。
「どんな方なんです!?」
「え、と……。専属執事で」
「まぁ!! ご令嬢と執事との恋なんですね!! お兄さんはその事を知っているのですか?」
「うっ……」
そう言えば、忘れてた……。
5年もいないから手紙でやり取りはしていたが、兄さんにその事を伝えていない。不思議そうに首を傾げ、私が伝えていないのを分かったのだろう。何故なのかと聞いて来た。
「その、レナリ様も見ましたよね? 兄さんの、その……過剰な構いっぷりと言うか、ちょっと行き過ぎると言うか」
「そう言えば……。まるで自分の恋人のような扱いでしたよね?」
レナリ様。もしそうなら、私達お互いの頬を引っ張らないです。口喧嘩なんてしないと思うのだけど……。
兄さんの重い愛情表現もあるから、私の専属執事との恋だなんて言える筈もない。叶うのならこのまま家に帰らないでも、私は全然構わない。
「ふふっ、でも兄妹でも愛しているではないですか」
「兄妹愛と恋人とは違いますよ」
「例えば、どんな……?」
「それは――」
答えようとして、ピタリと止まる。私だって人に言える程の経験はない。と、言うよりいつも傍にいるからかいざ恋人と思っても向こうは全然反応しない。
……抱き着いてもあんまり慌てないし、好きだと言っても止めて欲しいだとの言われて。
私、レオグルと恋人らしいこと1つもしてない……?
「うぅ、どうしよう……」
すっかり勢いを失くした私に、レナリ様は親身に話を聞いて下さった。
いつの間にか全てを、話してしまったのだ。お、恐ろしい程の聞き上手……!!!
「では、今度2人で出かけてみるというのはどうでしょうか? 外交で国の外に行きますが、他国では恋人同士で出かけたりしているのをよく見かけます。この王都内なら、例え日の光があっても大丈夫ですし」
「レナリ様……!!!」
どうしよう。彼女が神様に見えるよ!!! こんなに親身になってくれるだなんて、なんて心優しいのだ。嬉しくて泣いてしまった私を許して欲しい。
「その代わり、詳しくお話を聞かせて下さいな♪」
「……は、はい」
優しいけど、結果が気になるんですね。あと、妙に頷かないといけない気にさせられるのは……何故かな。
これも始祖の力だからなのか。そこからレナリ様と交流を持つ様になり、お茶会をするようになるとはこの時の私は思いもよらなかった。
いつの間にかそう動いている自分が……お、恐ろしいですぅ。