3、バーティス国の王子
「それにしても、兄さんに会うのは5年ぶり? だよね」
そう言いながら馬車の中で父様に話す。
私の3つ上の20歳の兄さん。私と同じ紫色の瞳に父様と同じ銀髪。物言いはかなり乱暴だけど、私とレファールに対しては激甘だ。
兄さんが城に行くようになったのだって、私に婚約者をとした父様と口喧嘩したからだ。屋敷はその衝撃で、少し壊れたけど……どうにか母様と私とで止めて、まだ小さかった筈のレファールが凄く落ち着ていた。……何故だ。
「あぁ。始祖であり王のガラルレ様に、王妃のワーディナル様、王子のラーバル様、王女のレナリ様。彼等のお陰でこの国は成り立っているといっていい」
父様の話を聞きながら私は馬車から見る城を見る。
白い城壁に赤い屋根。驚く事にこの城は全て始祖である彼等が作ったもの。それを代々始祖の血を受け継いだ子供達とで守っている。
アトワイル家もだけど、始祖の人達も太陽の元に出ても死なない。
吸血鬼は太陽の光を浴びるか、光の魔法によって生涯を終える。エルフに次いでの長寿だから、私はそれを自慢に思う。
とは言え、兄さんも言っていたけど和平を結んでいる国もあれば許さない国だってある。吸血鬼を狩るのはハンター達の仕事で、請け負っているのは人間だ。
吸血鬼に恨みを持った人達の組織。
その人達が作っている武器も、私達には有効だ。なにせ、光の魔法の効果が付与されている。人間の中で魔法に目覚める人は少ない。逆に私達吸血鬼やエルフ、ドワーフはその魔法に目覚めている者達が多い。
不公平、と言われればその通りだ。
だけど、始祖の人達は人間との和平が可能ならいつの日か全ての人達にだって通じると思っている。
現に王子のラーバル様は積極的に、和平を結ぶ為に外交に出て実績をあげている。妹のレナリ様も揃って出ているので、この国では有名だ。
「着いたぞ、エーデル」
「はい。父様」
ふと考え事をしていたらいつの間にか着いていた。
さて、久々の再会。……兄さんは上手くやっているのかどうか。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「エーデル!! 元気にしてたか? ちゃんと寝てるか? レファールとずっと一緒だよな? なっ?」
「ちょ、ちょっ……!!!」
文句を言う前に兄さんに抱きしめられて叶わない。しかもギュウギュウに!!! い、息が、息がしずらい!!!
「おーい。ここで窒息させないでよ」
「うっさい!!! 兄妹の再会を邪魔するな」
「え、今の……邪魔なの」
父様はすぐに王へと謁見とかで行っちゃうし、私はそのまま案内された部屋に入れば兄さんに抱きしめられているし。部屋の中がよく見えない。
う、同僚さんがいるのに無視なの?
「ぷはっ……」
「おっと、悪い悪い」
どうにか息を落ち着かせる。悪いと言いつつ、頭を乱暴に撫でないで欲しい。せっかく整えたのにダメになったではないか。
「はい。どうぞ」
「あ、ありがとうございます……」
「おい、近寄んなよ」
ちゃっかり兄さんは私の隣に座っているし……。チラチラと周りを見てみる。机が2つあり、部屋の真ん中に向き合う様にソファーが置かれている。ソファーの目の前に置かれている机には、私が受け取った黄色い飲み物が既に3人分用意されている。
兄さんは長い銀髪をいつも1つに結んでいる。そのままにしたら、周りから色々とうるさいんだって。あと視界も悪くなるから本人的には切りたいらしい。
なら切れば? と思うんだが、父様が短髪にしたら兄さんの性格をそのままに表したものだから止せ。と注意を受けたとかいないとか。
この話はレファールから聞いた。あの子、昔から噂話なりコソコソ話とかよく聞いてくるんだよね。やっぱりあの見た目だから、皆は安心して色々と話してくれるのだろうか。
「アレスからよく聞く妹さんだね。初めまして、私はラーバル。彼にコキ使われているよ」
「誰がだよ。お前の方が一杯、コキ使ってる癖に!!!」
「いやいや、比較したら絶対にアレスだって……」
ラーバルさんの事をチラっと見る。
物腰が優しいし、兄さんと比べたら雲泥の差だ。兄さんはこの通り、言葉は悪いし態度も悪い。これで私と同じマナーを学んだ、と言うのだから本当かと疑いたくなる。
薄い水緑色の上下のジャケットとズボン、灰色の髪に緑色の瞳。髪も瞳も透き通るような色合いだし、滲み出ている雰囲気からか魔力が漏れ出ているような……。
ん、ラーバルって……。
「も、もしかして……ラーバル王子っ!?」
ガタッと私は勢いよく立ち上がった。ただ隣に居た兄さんは、私の事を撫でていたからか「ごほっ……!!!」とぶつかった。勢いのまま立ち上がったから、私も頭がジンジンして痛い。ゴロゴロと転がる兄さんを睨みながら、私も痛みに耐えている。
「え、聞いてないの。ちょっとアレス、何で事前に言ってくれないのさ」
一方でラーバル王子は、不満げに頬を膨らませている。
え、え。兄さん、働いてるのは知っているけど……まさか王子の護衛をしているの? そんな事、手紙にだって書いてないじゃない!!!
「し、信じらんない……!!!」
「お、俺はお前の方が、信じ、られない」
兄さんはようやく痛みが引いたのか、軽く睨みながら答えて来た。と、言う事はここは王子の執務室って事? わ、私、思い切り部外者じゃない!!!
「バカ兄さん。何で早く知らせてくれないのよ!!!」
「ラーバルの奴が、エーデルに惚れられると困るからだ!!!」
「ほ、ほれっ……。な、何でそんな話になるの。訳が分からない!!!」
「あはははは。面白ーい♪」
私達の喧嘩にラーバル王子は愉快に笑った。
だけど、そんな状況だろうと私は兄さんに文句を言い続けた。それが、余計だったのか笑い続ける王子を他所に私達の喧嘩は続いていった。